蛇足三部作
『最後は隣に並んで歩こう』
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鼻につく鉄錆の匂い、己の腕を浸す熱い血潮、その痩身を貫いた際の肉の感触。
その全てが現実であるというのに、それが果たされたという事実を信じられなかった。
「――なんだよ、お前……オレに勝ったんだから、もう少し嬉しそうな顔をしろよ」
赤く染まった爪先で胸に刺さったままの己の腕へと触れながら、困った様に苦笑を浮かべる仇敵の姿。
届いたのか、己の手は――求め、追い続けたこいつへと。
呆然としていれば、不思議そうに小首を傾げた後――奴は苦笑を浮かべて己を見つめ返した。
「そ。とうとう、追い抜かれちゃった。これでも結構悔しがっているんだぞ」
「はしら、ま……」
己の内心を読み取った様に言葉を紡ぐ相手の名を、随分と引き攣った声が呼ぶ。
赤い血が零れる唇が弧を描いて、そっと血に濡れていない方の手が己の頬に触れ、目尻を撫でた。
「やあ、万華鏡に戻っているじゃないか。六道仙人の目も中々綺麗だったけど、やっぱり私はこっちの色の方が好きだなぁ……」
「この呪われた目に対して……そんな間抜けな事を言うのは貴様だけだぞ――この、変人め」
「ふふっ。そう言ってくれるな、本心なんだからさ」
そんな戯れ言を叩いている間にも、相手の片足が灰と化して――体勢を崩す。
地に崩れ落ちた相手に引っ張られる様にして、己も大地へと膝を付いた。
「…………聞きたいことがある」
「――ん? なんだ?」
全身が血に染まっているというのに、その凛然とした態度は崩れない。
強い光を宿したままの両眼の鋭さは、致命傷を負い、今にも黄泉路へと向かう途中の人間だと連想などさせない。
――――見ている己が腹立たしくなる程、奴は己の知る“千手柱間”のままだった。
「――何故」
「……ん?」
「貴様は何故、他の忍び共の様に『月の眼計画』を為そうとするオレ達を否定しなかった?」
己の考え出した救済策が万人に受け入れられるものではないことなど、当の昔に承知している。
そして、己が知っているこいつならば承諾しかねる策であることも分かっていた。
だから否定されると思っていた――……だというのに。
この仇敵ときたら有り得ない邂逅を果たし、叶わなかった筈の死闘を繰り広げていた最中でさえ、己を挑発する台詞は吐いても、己の計画に関した言葉は一度たりとて口にしなかったのだ。
――――それが、不思議で不可解だった。
「意外に……思ったのか?」
「それなりに。理想主義者である貴様の同意を得られるような策ではないのは、百も承知だったからな」
断定すれば、そっとその涼やかな面が伏せられる。
夜の冷たさを纏い始めた風が自分達の間を通り抜け、互いの黒髪が大きく翻った。
「そりゃあ、お前の考
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