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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の1:気づかぬうちに
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に調停官はエルフの長とは仲が良くない、というよりも仲が悪い。しかし子供らの親を怖がらせる目的においては、調停官とエルフの長の関係を臭わすのも悪い手ではないのだ。
 子供らは一様に安堵した表情をして、ここに来てやっと小さく笑みを浮かべた。キーラも釣られて安堵の笑みを漏らし、漸く彼らがハーブティーをちびちびと飲んでいた事に気付いた。

「ね、ハーブティー、どうだった?」
『まずい』
「・・・・・・そっか、不味いかぁ・・・」

 本日三度目のショックを受けて、キーラは思わず涙が出掛かった目頭を押さえた。 



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 夜の帳が真っ暗に降りる頃、王都の宮中にある一室で、疲れを伴った可憐な唸り声が明かりを突き抜けた。羽ペンをテーブルの上に置きながら、王女コーデリアは肩に溜まった疲労を解そうと指で揉み解している。彼女の後ろで本日最後の書類が滞りなく裁可された事を確認した侍従長のクィニが、恭しく頭を垂れた。

「本日の政務は以上となります。お疲れ様です」
「お疲れ様。じゃぁ、私は自室に行くわ」
「承知致しました」

 コーデリアは立ち上がって、貴族らしい気品のある足取りで執務のための部屋を後にし、己の自室へと向かう。王女が裁可する書類というのは中々に種類と量が豊富である。政務執行に伴って国王陛下か王女殿下のサインが必要であるという規則がそれをいわせるのであるが、ここ最近は特に多い。秋に行われる一大軍事演習のためのスケジュール管理、人事等に対する認可、傷病兵の異動に関わる裁可など、例を挙げればきりがないものであった。王女にまで回す必要があるのかという疑問もあるが、姉である第一王女は嘗てこれらを文句一つ言わず完璧にこなしていた。ならば自分がやらない訳にはいかないのである

「今宵の寝巻きは此方になります。では失礼して・・・」

 何時の間にか自室に戻っていたらしい。クィニが蝋燭の火をぼぉっと燈してくれた御陰で、キングサイズの寝台に置かれている明るいピンクのネグリジェが見えた。寝台の手前でコーデリアは止まり、クィニが澱み無い動作で彼女のドレスを脱がしていく。若さが溢れる肌が露になるが、直ぐにピンクのネグリジェによって包み隠された。魔法の如き手早さで以ってクィニは王女の着替えを済ませたのである。

「それではお休みなさいませ、コーデリア様」
「お休み、クィニ」

 彼女が立ち去るのを待ってから、コーデリアは寝台に向かい、だらしなく倒れこんだ。

「はぁ・・・疲れた・・・」

 四十手前の妙齢の女に相応しき声色であった。本当に疲れている事が窺える。書類一つ一つに集中して裁可したためであろう。生真面目な性分というのはこんな時にこそ負荷を与えてくれるものだ。だからといって
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