暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の1:気づかぬうちに
[6/14]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
てな、兄のホツは狩猟を得意とする偉丈夫で、弟のソツはまだ戦士の見習いだ。二人は今狩猟に出掛けておって、明日の夕方には帰ってくる予定だ。二人が帰ってきたら話してみるといい。その後で俺の用件を聞いてもらおう。その方が分かりやすいだろうからな」
「・・・となると、此処に滞在する事になりますね。長くなるかは分かりませぬが、どうぞ宜しくお願い致します」
「勝手にしろ。・・・そういえば貴様、連れが居るそうだな?おそらく一階で接待を受けて居るだろう。見に行ったらどうだ?」
「?接待ですと?」

 疑問符を浮かべた慧卓に男は手の甲を向けたまま、掌を振った。もう用は無いようだ。慧卓は思わず安堵を浮かべながら一礼をして部屋を後にし、言葉にあった通りに一階に赴く。そして、俄かに開けられた部屋の戸を見つけると其処に己を入り込ませ、暫しの間呆然とした。

「あ、ケイタクさん!この果物美味しいですよ!えっと、名前が・・・?」
「タイルトゥ=ブドウだ・・・」
「そうタイルトゥ!!酸味が良いんですっ、酸味!ほら、ケイタクさんのも取っておきましたから、一緒に食べましょ!」
「すまん、止めたんだがな・・・」

 本当に接待を受けていたようだ。籠に載せられた葡萄を嬉しそうに食べるパウリナと、申し訳無さそうに眉を垂れさせるユミルと、何も言わずに只管葡萄を食している少年エルフ。それらを見詰めてどこか得意げの執事。
 慧卓は諦観で、というよりも吹っ切れたように笑みを漏らす。

「まぁ、いっか!一緒に食べましょか!」
 
 もう面子などどうでもよくなったようだ。暫しの間、ただの友として会話と食事を愉しむのも悪くは無いという気分なのだろう。慧卓は年相応の晴れた笑みで葡萄を摘むと、数粒を一気に口に頬張って噛み締める。パウリナの言葉通り酸味のある、慧卓からすれば熟し切れてない味わいである。しかし美味だ。渋い皮も食べれるし、硬い種は無理にでも噛み砕く。歯応えのある葡萄とは初めてであり、慧卓は己の立場を忘れて食事を愉しんでいく。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 慧卓らが葡萄を愉しむのと同刻。彼らが住まうエルフ領内の仮住居では、キーラが暇そうに溜息を漏らしていた。両手を重ねてその上に顎を乗せて机に突っ伏し、椅子から投げ出された足はぶらぶらとしている。

「・・・はぁ。アリッサさん、遅いなぁ」

 そう言ってキーラは傍にあった地図の巻物を見詰めた。本来ならばもう帰ってきても良い頃合なのだが、アリッサは未だ帰ってこない。向こうで接待を受けているのであろう、そう考えれば不思議ではなかったが、キーラにとってはつまらないものであった。自分からどう動いたらいいものか未だ分からず仕舞いの彼女にとって、年上で、且つ冷静な仕事人間であるアリッ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ