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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の1:気づかぬうちに
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重臣からの報告書や嘆願書・始末書・起案書の類には、絶対に手を抜く事は出来ないのも事実であった。それが民草の生活に直接の影響を与えると理解しているからだ。
 ついでに言えば午前中は時たま出席する貴族界における必須技術、身体全体で行う芸術、ダンスの訓練を受けていた。これも貴族の面子と社会のためであると思えば苦にはならないが、疲労は蓄積する一方であった。

(・・・ケイタクさん、今頃なにやってるかな・・・)

 ごそごそと己を蠢かせ、仰向けに転がる。水色の髪が身体に敷かれて首筋にくすぐったさを伝えてきた。

(私、凄く頑張ってるよ。王国に生きる人達のために、沢山の政務をこなしている。皆の役に立ってるって自覚が凄く出てきたよ)

 脳裏に映る想い人の姿はあの夏の日以来、一向に翳ったり薄れたりする事は無い。それどころかより陰影はっきりとなる一方である。恋する女子の妄想たるや、その脚色ぶりは瞠目に値する。

(ケイタクさんはどうしてるのかな・・・。キーラとアリッサが一緒だから、御仕事の心配は無いんだけど・・・でも、流されやすいからなぁ・・・)

 彼女が心配する慧卓という男性は、若さと熱意のある男性ではあるが、それが時たま思い余って暴走する事もある。それが色仕掛けだった場合、彼はそれを断る術を知っているだろうか。

(・・・本当に流されていたらどうしよう・・・)

 ひょんな事から貞操を喪失するという事態にもなるかもしれない。一度そう考えると思考は嫉妬の弩壷へと嵌まり込んでしまう。その妬みはあの夏の情熱的な接吻に向けられた。

「むかつく・・・もっとしてくれてもよかったのに・・・」
 
 もし今、丁度誰もが静まる夜闇が到来しているが、その闇に付け込んで誰かといちゃついていたら。それがコーデリアにとっても親しき女性であれば一応の理解は出来る。だがエルフの女に篭絡されたとあっては殺意が芽生える。去勢させる覚悟を強いるかもしれない。
 一度火が付いてしまった熱はそう簡単には冷えぬものである。疲れ切った身体であるに関わらず、どうにも頭が冴えてしまった。

「・・・はぁ、寝れないよ・・・」

 嫉妬の熱が身体を火照らせ、どうにも変な気分に陥ってきた。初めてハーブの薫りを嗅いだ時も、これに似たような感じを抱いた事があった。身体の奥底にある渇きを刺激するような感じだ。

(・・・・・・)

 段々とコーデリアの珠の如き麗しの肌に赤みが差してきた。息苦しそうに頸元を緩めてほぉっと息を出す。殿方が見れば邪な思いを致さずには要られぬ、高貴さの中から発露した色気のある息遣いである。己の知識がこのような状態をなんと言うか冷静に、且つ否応無しに告げている。コーデリア=マインは今、欲情しているのだ。

「っ・・・はぁ・・・」

 
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