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王道を走れば:幻想にて
第四章、その5の1:気づかぬうちに
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!凄く可愛いから!」
「ありがとー!!」
 
 後から外套を羽織って追いついてきたパウリナの言葉に、慧卓は太陽のような浮かれた笑みを湛えて彼女のナップサックを背負った。背中に三つのサックが背負われており、小さな団子の山が作られる。それぞれに代えの衣類や食糧が入っているために相応に重いのだが、慧卓にとってはあまり気にならぬ程度の重みであった。
 ユミルは若人二人の微笑ましき光景に呆れ交じりの溜息を吐き、切り株の方へと足を向ける。少年は刃の研ぎを終え、出立を待っていた。

「言葉は喋れるんだろう、少年」

 その問いかけに答えず、少年は先導を切って歩いていく。村の外れ、西の道へ。その道が続く先には賢人の一人、キ=ジェが治める農村が待ち構えているのだ。
 三人の人間と一人のエルフは、こうして短い道程へと足を踏み入れていく。

 旅の一日目は順風満帆であり、何の問題もない。タイガの森を昼過ぎに抜け出したために、慧卓らは穏やかな絶景を垣間見る事ができた。即ち清涼な緑に包まれた草原であり、花々に群れる虫や小さき動物の群れである。夏の風が残っているために小さな蜂も見られ、或いは近くに小川でも流れているのだろうか蜻蛉が飛んでいるのが見えた。また、タイガの森と同じように野生の兎も見受けられ、驚いた事に蛇も見られた。毒持ちではないだろうとユミルに言われなければ動転せずにいられたのが、慧卓の残念がった所である。ちなみにパウリナをそれを聞き、蛇を己の頸に嬉々として巻きつけようとした。無論ユミルによって止められたが。
 草原を歩きながら遠くに見えるのは雄大なる山々と、その稜線だ。麓の方には針葉樹の見事な秋の風景が広がっており、色彩豊かなそれは目を愉しませてくれる。同時に、その遥か奥に聳え立つ広陵とした山々には圧倒されるばかりだ。即ち、白の峰。登山の経験がある慧卓にはその雄大さが人一倍に理解できている心算だ。あの山は、生半可な覚悟では登れない。否、越える事が出来ないというのが正しかった。高さは凡そ、四千メートル級であろう。なだらかな稜線がまるで波のように続き、大自然の壁となって視界を独占する。恐ろしき事は既に山頂の方では暑い雪雲が掛かっている事でり、山も白い傘を被っている事である。この暑い季節であれなのだから、冬はどうなる事やらである。
 結局、朽ち果てた大木が作る大きな穴の中に寝床を構え、その日の労を癒した。寝床においては、篝火に惹かれて虫の類が集まるのが大変であった。特に飛ぶ系の虫が何匹も顔に引っ付いた時は、慧卓にとって生きた心地がしなかった。石化した心で聞こえたパウリナの心地良さげな鼾が全くもって恨めしいとも思えたのだ。つくづく性質の合わない女性であるとばかりに眉が顰められた表情を、ユミルは薄く目を開けて愉しんでいた。

 旅の二日目、早朝の行進と共
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