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王道を走れば:幻想にて
第四章、その4の2:布石
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らしているのだから。

(さてと、そろそろ行くかなあ。・・・奴は一体何を発表するのやら・・・)

 髭のない顎を撫でながら老人はくるりと背を回し、己が泊まる帝国魔術学会の地方支部の建物へと向かう。荘厳な石造りの建物であり、華美な装飾は皆無、実務面のみを追及している。
 入り口から入って正面にある、開かれた大扉の内側へと身を滑り込ませる。厳かな音楽鑑賞には打ってつけの大ホールには、既に多くの者達が席に付いていた。皆が皆ロープやマントを羽織っており、学者か魔術師、あるいは高位の者であると分かる。
 老人は近くにいた知り合いに挨拶をすると、それとなく尋ねた。

「・・・どう思う?」
「登壇するマティウス、という輩か?王国の者にしてはかなりの切れ者だろう。だが、我等帝国の頭脳には及ばん」
「・・・貴殿は?」
「あの者の専門は召還魔法だ。おそらくそれについての発表だと思うぞ。・・・でなくば、私はここに来たりはせんよ」

 地位と経験に相応しき自信であり、優越心であったが老人が望む回答ではなかった。老人はちらと壇上を見やる。王国の樫の旗、帝国の双頭の獅子の旗が壇に飾られている。王国と帝国の魔術学院同士により研究協定、その発表の一つが此処で行われるのである。
 やがて、ホール内を照らしていた篝火が順々小さくなり、灯火は壇上と入り口を照らすものだけが強い光を放つ。時間のようだ。手近な席に座って老人は待っていると、直ぐに一人の老人が幕の脇から壇上に上がってきて、それを拍手が迎える。登壇した老人は尖った目つきでそれに応えて、そして言い放つ。

『御集まり頂いた紳士淑女の皆様。私はマイン王国魔術大学校長であります、マティウス=コープスであります。本日は御集まり頂き、大変恐縮で御座います』
(恐縮、か。そんな事を言う顔ではないな。下賎な笑みよ)

 壇上のマティウスは、老人から見ればまるで蔑むかのように笑みを浮かべているが、他者から見ればただの愛想笑いなのだろうか。少なくともあれを見て気分を害する者はこの場には居ないようだ。

『この度、私のような廃れるだけの老骨がこのような偉大な場を借りて己の研究を発表できるのは、偏に帝国の威信と栄誉の御蔭であります。心より感謝致します』

 世辞に反応は無い。会場には感謝されて当然という空気すら漂っている。だがマティウスは不敵な態度を崩さない。

『私がこの場を借りて発表させていただきたいと思いますのは、私が常日頃より研究を重ねております、召還魔法についてであります』
「ほら見ろ。矢張りそうであったわ」
「黙っておれ」
『元来召還魔法とはその成立の根を辿れば、古くは古に住まう龍との契約において誕生した魔法でありました。古の魔術師は肉体、即ち血液と肉を棄てて、代わりに魔力を魂に宿し、それを新
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