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王道を走れば:幻想にて
第四章、その4の2:布石
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は)

 どうしようもない思いで彼女は憂いの息を漏らす。それは傍目から察しの良い者が見れば、まるで恋慕に悩む女子に違わぬ姿であった。



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 燦燦と輝く星星。群青にも似た漆黒の空。箒に払われた塵の如く無造作にそれは浮かんでいるが、同時にどこか規則がかったかのような軌跡を描いており、その上それぞれが色も輝きも違っている。大地に織成す人の営みの如くそれは瞬いているようで、ふとした拍子で見上げれば、枯れた心を癒すようにも思えてくるのだ。
 だからこそ、己は天文学を志した。帝国の官吏としての荒んだ生活は一転、穏やかさと清廉さに満ちた生活に変わった。星星には、宙には、人知の及ばぬ魅力が隠れているのだろうか。だとすれば自分はそれをいつまでも追っていきたい。その輝きが人々を救う手立てとなれたら、それは大きな名誉にもなるのだから。
 神聖マイン帝国の一官吏として、そして今では天文学会の長として年を重ねた男は感慨に耽りながら漆黒の宙を観察する。肉眼による観察は苦労ではあるが、浪漫を追い求めるのだから苦とは成り得なかった。屋外のただの草むらの中であっても。

「む・・・?」

 老人は瞳を細める。卓越した視力、そして老いて尚健在な記憶力が告げている。

「あんな所に星があったか?・・・新星、か?」
「先生、どうしました?」
「うむ。あれを見てみよ」

 駆け寄ってきた弟子にその在り処を教える。だが弟子はなんともし難い戸惑いの表情である。

「ど、どれですか?」
「ほれ、あの白い星だ。大三角の内側、この前教えた赤い四等星の隣だ」
「・・・あ、本当だ。こんな明るい星、ありましたっけ?」
「分からん。宙の彼方で何があるかなど、我等は誰一人として知らんからな。・・・苔生す石に隠れる花のようだな。今まで気付かなかっただけかもしれん」
「詩的ですねぇ・・・。僕にはそんな例え方、思えやしません」
「ああ。私も自分で言っててなんだか恥ずかしくなって来た。もう追求するな」
「詩的ですねぇ。すっごい詩的ぃ」
「・・・・・・」

 老人は無言で弟子に拳骨を落とす。ごつんと小気味良い音がして弟子が苦悶を漏らす。愉快である。

「さてと、もうすぐ王国の魔術大学の発表だ。お前は・・・そうだったな、逢引であったな」
「すいません、ちょっとこればかしは・・・」
「気にしておらん。というより、盛大にやるがよい。恋愛は若い者しか出来んからな」
「有難う御座います、先生。でもちゃんと後で、発表の中身を教えて下さいよ?」
「分かった分かった」

 ひらひらと手を振ると、弟子は喜色の笑みで草むらを駆けていく。近場の農場に彼の恋人がいるらしい。何とも羨ましい、自分の伴侶と子供は此処から遠く、帝都に暮
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