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王道を走れば:幻想にて
第四章、その4の2:布石
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任を任せられるのって、キーラしか居ないから」
「ふふ。貴族だもの。お国のための大任なんて、御安い御用だよ」

 くすりとした笑みを浮かべてキーラは答える。貴族の義務を果たそうとする覚悟は、自分と出会う前から備わっているのだろうか。だとするとこの世界の若者には悉く頭が下がる思いである。誰も彼もが立派で、自分に課せられたものがなんであるかを理解している。
 対して自分はどうであろうか。己が持つ騎士と言う地位を、まだ確りと理解できていないのではなかろうか。学ぶべき事はまだまだ多そうであり、前途多難が予想されるのが億劫である。
 キーラは期待するかのように瞳を向けてきながら言う。

「でも、まだちょっと不安だな。この一週間ずっと近衛騎士様の補佐をするだなんて。私に務まるかな?」
「キーラなら出来る。俺はそう確信してるから」
「うーん・・・でもまだしっくりこないんだよなぁ・・・もっと、大きな切欠みたいなものが欲しいというか・・・」
「・・・分かった」

 何となく期待されているものが見えてしまったが、それにそのまま答える気は起きない。自分にはコーデリアがいるのだから。

「・・・ケイタク、さん?」
「キーラ、こっち見て」

 俄かに期待の色を増しながらキーラは瞳を向けてくる。矢張り可憐な微笑である。順番さえ違ったなら彼女の方を好いてしまったかもしれない。
 そんな思いを抱きつつも慧卓はキーラの肩を握ってそっと己へと引き寄せる。そして彼女の前髪を掻き分けると、額に優しく唇を落とした。

「やる気、出たか?」
「・・・もう少し、このままで居れたら、出るかも」
「好きなだけ居ろ。だから絶対にやる気出せ」
「うん」

 満面、とまではいかないが安らかな笑みを湛えてキーラは目を閉じる。頬に感じる慧卓の熱に夢心地となっているように見える。本当に期待しているのはおそらく接吻なのであろうが、流石にそこまで応える事は出来ない。せめて後半年は操を守らねばならないからだ。
 一方で慧卓は、悪い気を感じてはなかった。飾れば傾城の美に達するやもしれない美少女を抱擁し、その上彼女から好意まで抱かれているのだから。役得役得、に留めておくのが自分の義務なのだろう。
 二人が逢瀬を過ごす間、室内に残されたアリッサは本日五冊目の本を読破し、テーブルに投げ放つ。ぽんっという音をして軽く埃が舞った。アリッサは眉間を押さえながら背凭れによっかかり、天井を仰いだ。

(・・・なんなんだ、この感じ)

 胸中に抱く焼けるような思い。慧卓がキーラと出て行った後からその思いは発されて、本の中身など全く頭に入らなかった。ちらちらと慧卓が出て行った入り口を見てしまい、落ち着きが無くなる。

(・・・どうしたんだろうな、私は。・・・どうしたらいいんだ・・・私
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