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王道を走れば:幻想にて
第四章、その4の2:布石
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の言えた義理かよ?」
「なんだと貴様っ・・・」
「アダン殿っ、言い過ぎだ!」

 止めに入るも二人は聞かず、汚物を見るかのように睨み合うのみである。やがて年功の余裕を利かせたいのか、イルの方が先に折れてチェスターに鋭く言う。

「申し訳ないがチェスター殿、貴殿らを留まらせる場所を間違えたようだ。これから私が案内する場所を新たな家と思っていただきたい。人払いはもう済んでいる」
「それは構わないが、あれはどうなっているのだ?」
「・・・魔獣の排除は鋭意遂行中だ。降霜の月、その終わりには全ての任務が完了する」
「そうか。それまで我等の安全を確保してくれよ。これまでに提供した資金はまだ半分。残余は未だ、我等の手中にあるのだからな。・・・いくぞ、アダン殿」
「あいよ」

 イルは嫌気と疲労を隠さぬ露骨な溜息を漏らしつつ、二人を屋外へと案内していく。
 一方で自らが泊まるエルフの家へと戻った慧卓を向かえたのは、夏なのに、ふかふかのコートを羽織ってはしゃぐパウリナであった。

「あっ!ケイタクさん見て下さいよ!エルフのコートですよ、コート!すっごいふっかふかで気持ちいんだぁっ」
「・・・見てて和むね」
「そ、そうですね」

 緊張感をものともしない彼女の温かさに当てられてリコは自然と頬を柔らかにする。慧卓はそっと彼から離れて入り口の近くに背を預け、測量のために重くなった身体を癒そうとする。その時、王国の兵士が静かに現れて彼に告げた。

「ケイタク殿。先日捕縛した賊は無事に磔刑に処されたようです」
「・・・わかった。知らせてくれて、ありがとな。下がれ」
「はっ」

 一礼して去っていく兵士には目も遣らず、慧卓は今後の予定を考えるよりも前に、先に足の疲れを解したい気持ちに駆られた。目の前でコート一枚ではしゃげる二人がどうにも羨ましい気分であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その夜、慧卓はアリッサと共にエルフ側から提供された資料を読み漁っていた。室内の篝火の明かりを頼りに、新旧様々な本や巻物を丁寧に読んでいく。風習や信仰も当然ではあるが、歴史の部分に傾倒して読むのは止められない。これも騎士としての活動のためであり、何ら責められる事由がないと言うのが彼の言い分である。
 本の読了に集中していると、ふと入り口の方から風が吹いてきた。戸は閉めた筈なのにと目を遣ると、キーラが顔を覗かせていた。

「ケイタクさん、ちょっと・・・」
「?ああ」

 本をテーブルに置いて慧卓は外へと出て行く。アリッサが視線を送るも、直ぐにそれから目を離して再び書物の頁を送っていく。
 外に出た慧卓はすっかりと青黒くなった空を見上げた。時刻でいえば、凡そ午後九時ぐらいであろうか。二人は建物の影に隠れるよ
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