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王道を走れば:幻想にて
第四章、その4の2:布石
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が行われる儀式を御存じないようだ。すなわちそれは、剣の舞」
「・・・何でしょうか、それは」
「大いなる自然に宿る神々は、遍く大地に恵みを齎し、同時に災害という名の刃を振り落とす。巫女はその恵みに感謝すると同時に、刃から身を守らんと神々に畏敬の祈りを送るのだ。舞によって祈りを送り、エルフの信心を捧ぐのだ。それこそが剣の舞。神聖にして不可侵な巫女殿の儀式なのだ」

 そう言って黙するイル=フードからは、自然と人の心を締め付けるような威圧感が放たれていた。人々の上に君臨する、あのニムル国王と同じような泰然として姿。
 慧卓はその蛇の如き瞳を見てさっと顔色を変える。己のしている事の危うさと短慮さに後から気付いたのだ。

「・・・御無礼、お許しください。行くよ、リコ」
「・・・はい」

 慧卓はそう言ってリコを引き連れて、今度こそその場を後にする。人から恨みを直ぐにその仕返しを考えるという、己の器の小ささを自覚したような気持ちで胸がむかむかとし、唇を引き締めて無言で帰っていく。途中までは勝っていたのに最後は自分から台無しにした、そんな惨めな気分であった。
 残されたイル=フードは暫し王国の騎士の背中を見詰め、ふと振り返る。衛兵達が一様にして戸惑ったような瞳をしているのだ。

「か、閣下・・・剣の舞とは、一体・・・」
「忘れろ。いいな、深く考えるな」
「・・・承知致しました」

 押し殺したような声で衛兵は言う。咄嗟に口から放たれたのは現実には行われていない、偽りの祭事であったのだ。エルフの慣習に無知な慧卓を騙すための嘘であり、衛兵らが知らぬのは当然の話であり、イルが嘘を放ったのも見抜かれている。
 衛兵らは特に何も言わずに去っていき、再び哨戒の任に戻っていく。イルに対する冷たい視線を置き去りにして。

「・・・行ったようだ。もう大丈夫だな」

 一方で民家の中に居た若き人間、チェスターは肝を冷やしたかのような思いで額を拭い、相方であるアダンに向かって怒鳴る。

「アダン殿っ、一体何を考えているんだっ!」
「念のためだ」
「念のため!?馬鹿か貴方はっ!余計なところまで徒に闘気を出す奴が居るか!」
「試した心算だったんだ。お前が気に掛ける奴がどれほどの奴かとな・・・。そしたら、気付かれた。ああいうのには鋭敏なんだな」
「何を考えているのだっ、貴方はっ・・・」

 更に語気を荒げようとすると、民家の入り口の幕が乱暴に払われる。冷静さをかなぐり捨てた怒りの形相で、イル=フードが問い詰めてきたのだ。

「先程、ここで剣を抜かれていたのはアダン殿だな?」
「ああ、そうだ」
「今後二度とこのような事が無いよう御注意願いたい・・・。部下の前で恥を晒す羽目となったわ・・・!」
「けっ。金で忠心を買ってるくせに。そんな
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