第二章
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「とてもね」
「いつもそう言ってくれるわね」
「そう思っているからね」
「いつもなのね」
「そうだよ、だからね」
それでというのだ。
「これからもね」
「幸せに」
「三人でね」
「三人じゃなくなるわ」
妻はにこりと笑って言ってきた。
「今日病院に行って来たら」
「まさか」
「そのまさかよ、三ヶ月よ」
「そうなんだ、それは嬉しいね」
「ええ、じゃあこれからはね」
「四人でね」
「幸せになりましょう」
「そうしようね」
笑顔で話してそうしてだった。
妻とも楽しく語り合った、妻も娘もいつも彼のことをこう言っていた。
「とてもいい人よ」
「優しいよ、お父さん」
「よく喋ってくれて笑顔で」
「いつも一緒に遊んでくれるの」
「家事も手伝って相談に乗ってくれて」
「お休みの時は旅行やピクニックに連れて行ってくれるの」
こう話すのだった。
「あんないいお父さんいないわ」
「あの人と家族に慣れてよかったわ」
こう言うのだった、だが。
その話を聞いてもだ、彼の同僚は信じられなかった。
「嘘じゃないのか」
「家庭ではそうとか」
「笑顔でいるなんて」
「よく喋るなんて」
「家族サービスもするなんて」
それこそというのだ。
「別人じゃないのか」
「家ではそうじゃないのか」
「これは現実の話か」
「あの人がそんな」
同僚の軍人達は信じられなかった、しかし。
二人目の娘のアンナもそう言いやがて家族に迎えた金色の毛のブリヤード家ヨハンナも彼に懐いた、そして家ではだった。
彼はよき夫であり優しい父のままだった、それでだった。
ずっと家族に慕われた、それは定年してからもで。
孫達にも慕われた、だが家族は誰も仕事の時の彼を知らなかった。軍人であったことは知っているが。
スパイとは知らずだ、こう言うのだった。
「お父さんとてもいい人だから」
「軍人さんって市民を守るお仕事だから」
「御父さんだから出来るのね」
「とても優しい人だから」
こう言うのだった、そのとても優しくいつも笑顔の彼を見て。定年を迎え今は穏やかに暮らしている彼のことは家でだけ知っていた。
スパイの家族 完
2024・10・11
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