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さとり
第一章

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               さとり
 さとりは山に暮らしている妖怪である、大きな猿の様な姿をしていて目の前にいる相手の考えがわかる、だからさとりと呼ばれている。
 そのさとりにだ、友人の山わろが彼の家に来て聞いてきた。
「あんたは今のわしの考えがわかるな」
「蟹を食いたいと思っているな」
 さとりは笑って応えた、二人で畳の部屋の中でそれぞれ座布団に座って向かい合っている。そのうえで話している。
「そうだな」
「ああ、沢蟹をな」
「やはりそうだな」
「やっぱりわかるな」
「それがわしだからな」
 さとりは山わろに笑って返した。
「だから山で迷っている者もな」
「わかるな」
「それでこっそり道を教えて家に帰してやっている」
 そうしたこともしているというのだ。
「困った者は助けないとな」
「妖怪だけでなくだな」
「人もな、まあそれが悪者ならな」
 山に入ってよからぬことをしようとする者ならというのだ。
「わしも許さんがな」
「懲らしめるな」
「そうしている」 
 実際にというのだ。
「わしもな」
「いいことだ、それでその沢蟹を持っているが」
 笑顔でだ、山わろはさとりに言った。
「これからな」
「一緒に食うかだな」
「ああ、どうだ」
「酒を出すぞ」 
 さとりは笑顔で言って実際にだった。
 その酒を出して茹でた沢蟹を山わろと一緒に食べた、そうしてだった。
 酒も飲んだそのどちらもしこたま楽しんでからだった、さとりは山わろにこんなことを言ったのだった。
「これからどうする」
「さて、どうしようか」
 山わろは赤らんだ顔で応えた。
「一体」
「何も考えていないな」
「ああ、これといってな」
 実際にというのだ。
「考えが浮かばない」
「そうだな、見てもな」 
 山わろの頭をというのだ。
「どうもな」
「そうだな、わしは実際にそうだしな」 
 今の自分はとだ、山わろは答えた。
「飲んで食ってな」
「満足してか」
「これといってな」
「考えられないな」
「そうなっている」
 実際にというのだ。
「これがな」
「かく言うわしもな」 
 さとりは腕を組んで述べた。
「考えられん、どうしたものか」
「さてな」
 二人でこんな話をしているうちにだった。
 二人は寝た、そして起きるとだった。
「もう夕方か」
「昼に飲んで食ったのにな」
 部屋の窓から見える夕陽と赤い空を見て言った。
「寝過ぎたな」
「全くだ」
「さて、それならな」
 山わろはそれならとだ、さとりに告げた。
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