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コントラクト・ガーディアン─Over the World─
第一部 皇都編
第二十八章―邂逅の果て―#2
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に呟く。

「で───それだけか?」
「え?はい、それだけですが…」
「そうか…。それだけで信者になってしまったのか…」
「はい?」

 何か、ハルドのときも、そんなことを言っていたような…。

「いや、何でもない」

 レド様は首を横に振る。……うん、これ以上は訊かない方がいいな。これは深く追求してはいけない。話題を変えよう。

「今日は暗いと思ったら、月が二つとも大きく欠けているんですね」
「そういえば、そうだな」

 まあ、それでも前世の夜に比べたら明るいのだけれど。

 この世界に生まれて16年も経つのに、二つの───あるいは三つの月が浮かぶ夜空を見上げるたび、ここが前世とは違う世界であることを実感して不思議な気分になる。

 自分がこの世界に存在していることも─────

「リゼ?」
「あ…、すみません。何だか、」

「リゼちゃん!」

 後ろから呼ばれて、私は言葉を呑み込む。

 振り返ると、バドさんの奥さんで、かつてガレスさんが率いていたAランクパーティーに所属していたベテラン冒険者───エイナさんが、手を振っている。

「こんばんは、エイナさん」
「こんばんは。リゼちゃんと殿下も酒場に向かうところ?」

 エイナさんは、スタンピード殲滅戦の直前から何度かレド様と顔を合わせている。その度に『アレドでいい』とレド様が言っているのだが、タメ口にはなっても何故だか殿下呼びだけは変わらない。

「ええ、エイナさんも?」
「子供たちもいるから参加しないつもりだったんだけど、バドがいつもより早く帰って来て、『行ってこい』って言ってくれてね。まだ間に合う時間だし、ちょっとだけ参加させてもらおうかなって思ってね」

 エイナさんは嬉しそうに答える。

 頬がほんのり色づいているところを見ると、打ち上げに参加できるからというより、バドさんが気遣ってくれたことが嬉しいみたいだ。

 二人がお互いを思いやっているのが感じられて、ほっこりする。

「幼子がいる身でありながら、この皇都を護るために参戦してくれたこと────本当に感謝している」

 エイナさんが幼い子供を持つ母親であることを改めて認識したのだろう。レド様が真摯にそう告げると、エイナさんは朗らかな笑みを浮かべた。

「この皇都はあたしにとって第二の故郷ですから、護るのは当然です。殿下こそ、皇都を護ってくださってありがとうございます。皇都民を代表して、お礼を申し上げます」

 レド様は、一瞬目を見開いてから、エイナさんの感謝の言葉を噛み締めるように瞼を閉じて────瞼を開けたときには、その口元に微笑を湛えていた。

「誰か一人にでも…、そんな風に思ってもらえるなら────剣をとった甲斐があった」

 
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