第三章
[8]前話
「覚えてるわよね、二人で最初に乗った日のこと」
「ええ」
約束した通り笑顔だった、そのうえで話す。
「二人で乗って貴女が漕いでくれて」
「今みたいにね」
「全然進まなかったわよね」
「ボート乗るのはじめてだったから」
だから漕ぎ方もよくわからなかった、あの時は。
「御免ね、嫌だったわよね」
「嫌じゃなかったわ」
こう私に返してくれた。
「いい思い出よ」
「そうなのね」
「ええ、その時のことは一生忘れないから」
「今もよね」
「忘れないわ、本当に」
そうだと答えてくれた、私に。
「ずっとね」
「そうしてくれるのね、じゃあ私も」
「ボート、今度はね」
「今度は?」
「私はあの人と乗ることになるわ」
「それで私も」
「新しい相手とそうしてね」
別れて、そしてだというのだ。
「幸せにね」
「わかってるわ、けれどその時は」
「その時はよね」
「その人に漕いでもらうわ」
誰かも、顔も身体も想像出来ない相手を前に思い浮かべて答えた。
「そうしてもらうわ」
「そうしてね」
「女の子としてね」
二人で話しながらボートに乗った、ボートに乗りながら二人で一緒に作ったサンドイッチも食べた。これも二人の最後の思い出だった。
それを食べてからボートを戻して湖を後にした、緑の水草に囲まれた青い湖は何処までも澄んでいて穏やかだった。
その水面を見てから私はまた彼女に言った。
「明日、最高の笑顔を見せてね」
「それじゃあね」
二人で言ってそうしてだった。
私達は湖を後にした、その次の日に。
彼女は教会であの人とバージンロードを歩いた、その白いウェディングドレスを着た彼女は何処までもい綺麗だった。
笑顔で彼と誓い合う彼女を拍手と、そして笑顔で見た。
その彼女を最後まで見た、そして教会を二人で出る彼女がブーケを投げると。
私が受け取った、彼女はその私ににこりと笑って言ってくれた。
「次は貴女が幸せになってね」
「ええ」
私もにこりと笑って応える、私達の恋は終わって新しい恋がはじまる、私は今それが訪れることを確かに感じた。彼女からの幸せのブーケを手にして。
禁じられた二人 完
2013・2・3
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