第一章
[2]次話
ウィッグの力
この時高見勝也は悩んでいた、何とだ。
「また減ったわね」
「ああ」
妻の佳代に苦い顔で答えた。
「もうどんどんな」
「薄くなってきているわね」
「親父も祖父さんもでな」
それでというのだ。
「俺もだ」
「きたってことね」
「遺伝は怖いな」
面長で眼鏡をかけている、髪の毛はもう左右にしかない。やや太っていて背は一七〇あるかないか位だ。
「五十過ぎたらな」
「あっという間ね」
「ああ、全くな」
「気にしているわね」
「気にしても仕方ないけれどな」
茶色の髪を後ろで束ねた丸顔で切れ長の目で小柄な妻に言った。
「それでもな」
「そうよね」
「どうにかならないかってな」
その様にというのだ。
「思うよ」
「戻ればって」
「そうだよ」
どうしてもというのだ。
「本音を言うと」
「だったらね」
母親そっくりの外見の娘で大学生の菜月が言ってきた。
「もうウィッグどう?」
「鬘か」
「あれ着けたら?」
「あれはないだろ」
娘にどうかという顔で返した。
「もう僕が薄くなっているのは皆知っているんだ」
「市役所でも」
「家でもご近所でもな」
まさに知り合いの人全員がというのだ。
「親戚中でもな」
「だからなのね」
「もうな」
それこそというのだ。
「鬘を被ってもな」
「仕方ないのね」
「そうだろ」
こう娘に言った。
「もう本当にな」
「今更ね」
「鬘を被ってもな」
「そうなのね」
「それに被ってもな」
鬘をというのだ。
「お父さんの髪の毛は戻らないだろ」
「そうだけれどね」
「もう受け入れるしかないな」
達観した様に言った。
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