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拝啓、あしながおじさん。 〜令和日本のジュディ・アボットより〜
第1章 高校1年生
ナツ恋。 A
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いうところである。

「わあ……! ステキなお家ですね!」

 愛美は千藤家の外観に、歓声を上げた。
 そこはいわゆる昔ながらの農家≠ニいう感じの日本家屋(かおく)ではなく、洋風の(つく)りの二階建てで、壁の色はペパーミントグリーンだ。

「ここは元々、〈辺唐院グループ〉の持ち物で、純也()っちゃんの別荘だったのよ」

「えっ、純也さんの!?」

 多恵さんの口から思いがけない名前が飛び出し、愛美は目を丸くした。

「ええ、そうだけど。愛美ちゃん、純也坊っちゃんのことご存じなの?」

「はい。五月に一度、学校を訪ねて来られたことがあって。わたしがその時、姪の珠莉ちゃんに代わって校内を案内して差し上げたんです」

 愛美は純也と知り合った経緯を多恵に話した。――ただし、実はその時から彼に恋をしている、という事実は伏せて。

「そうだったの。――私は昔、あの家で家政婦をやっててね。そのご縁で、私が家政婦を引退した時に坊っちゃんが私にこの家と土地を()(ぞう)して下さって。それでウチの人とここで農園を始めたのよ」

(ここがまさか、純也さんの持ち物だったなんて。……あれ? じゃあ、おじさまはどうやってここのこと知ったんだろう?)

 愛美は首を傾げる。あしながおじさん=\―つまり田中太郎氏と純也は知り合いということだろうか? もしくは、秘書の久留島栄吉氏と。

(……あれ? ちょっと待って。確か『あしながおじさん』では――)

 あの小説では、あしながおじさん(イコール)ジュリアの叔父ジャーヴィスだったはず。でも、まさか純也があしながおじさん≠セなんて! あまりにもありきたりな展開だ。「あり得ない」と、愛美の頭の中でもう一人の愛美が言っているような気がする。

(……まあいいや。おじさまに直接手紙で確かめよう)

「――愛美ちゃん、荷物を部屋まで運ぼう。車から降ろすから、手伝っておくれ」

 考えごとをしていると、千藤さんが愛美を呼んだ。

「はいっ!」

 愛美の荷物なのだから、千藤さんに手伝ってもらうのはいいとしても、愛美が彼を手伝うのはお(かど)違いだ。

「ヨイショっと。――先に荷物だけ送っといてもらってもよかったんだけどね」

「ありがとうございます。すみません。なんか、先に荷物だけ届いてもご迷惑かな、と思ったんで。……っていうか、そもそも思いつかなくて」

 本が詰め込まれた重い箱を持ち上げた千藤さんを手伝いながら、愛美は「その手があったか」と目からウロコだった。

「いやぁ、迷惑なんてとんでもない。本人が後から来るんだったら同じことだよ。……や、ありがとうね」

 多恵さんにも手伝ってもらい、三人でどうにか全ての荷物を
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