第一章
[2]次話
相続者
北海道の札幌でラーメン屋を営んでいる森川潤、白いものが混じった黒髪を短くし他長方形の顔で小さな目と引き締まった目を持つ一八〇近い体格でやや太った身体を持つ彼は日々ラーメンの研究に勤しんでいた。
最早ラーメン馬鹿と言っていい、美味いラーメンと店の経営に腐心している。
自分には厳しいが他人には優しい、それで店員達からも慕われている。
「人には優しくしないとな」
「駄目ですか」
「ああ、人に厳しいとな」
若い店員に話した。
「その分な」
「嫌われますか」
「あまり厳しいと本当にだ」
店員にさらに言った。
「人が近寄らなくなる」
「そうなりますね」
「それでいざという時に誰もな」
「助けてくれなくて」
「墓穴になるんだ」
「そうですか」
「最悪なのはな」
それはというと。
「あれだ、自分に甘く」
「他人に厳しい」
「どっかの黒い短い髪の毛で白い服でな」
サンプルの様な人物を話に出した、店内で皆で閉店後の掃除をしつつ話す。
「駝鳥に人の歯をくっつけたみたいな」
「ああ、あの都知事選に出た」
「ああいうのがな」
「一番駄目ですね」
「本当に困った時誰も助けてくれにぞ」
「だからですね」
「普段から穏やかで」
そうであってというのだ。
「優しくがな」
「一番ですね」
「そうだよ」
こう言って実際にだった。
森川は誰にも優しかった、コワモテの顔だが温厚だと誰からも慕われた。そうして彼はこんなことも言った。
「学校の勉強が駄目でも他に得意分野があるとな」
「やっていけますか」
「そうしたものだ」
こうも言うのだった。
「だからな」
「勉強が苦手でもですね」
「あまり気にするな、誰でも得意分野はある」
「けれど店長さん大学出てますね」
「一応な」
「それも結構いい大学で高校までの成績も」
それもというのだ。
「いいですけれど」
「それでもな、むしろ勉強が出来てもな」
「駄目な人いますか」
「ああ、東大法学部出てもな」
それでもというのだ。
「そこから弁護士になっても政治家になってもな」
「ああ、あの人ですね」
「ああしたのもあるからな」
だからだというのだ。
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