勘のいい子
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もう、すっかりと習慣になってしまったのだろう。
気付いた時には、ハルトはもう教授の研究室前にいた。
ビーストがフロストノヴァと戦闘を開始したころ。そんな騒ぎになっている
とは露知らず、ハルトはいつものように教授の研究室に訪れていた。
巨大なコウモリもネズミも、もうハルトを驚かせるに値しない。
慣れた歩調で研究室の扉に到着したハルトは、コンコンとノックをする。しばらく無音が続くが、やがてドアが開き、えりかが姿を現した。
「あれ? 松菜さん。今日は早いですね」
「……ちょっとね」
ハルトは努めて笑顔を作る。
だがえりかは、ぽかーんとした表情でハルトの表情を見つめている。
「松菜さん?」
「ん、ああ。どうしたの?」
「何かありましたか?」
彼女のくりくりとした目は、なぜかハルトの心の錘を見抜いている気がしてならない。
ハルトは顔をなるべく合わせないようにしながら、研究室に対散る。
変わらずの足場がなくなりそうなほどに資料が敷き詰められている研究室に辟易しながら、ハルトはえりかへ振り替える。
「どうだった? 賢者の石」
「……あまり気持ちのいい調べものではなかったですね」
えりかは少し肩を落とした。
「興味深い話は多かったですけど……その……」
「その?」
「いいえ」
えりかはそれ以上の説明へ首を振った。
「……少し、難しすぎたので、蒼井には理解できなかったです」
少しぎこちない口調で、えりかはほほ笑んだ。
ハルトも後で確認しようと思い、研究室の中を見渡す。
だが室内には、黒一色の教授も、桃色の華である結梨の姿もない。
「あれ? 教授は?」
「いませんか?」
えりかも研究室を見渡す。彼女以外無人となっている研究室は、教授であろうといなくなれば生活感すらなくなる。
「あれ? さっきまでいたと思うんですけど……どこかで何か研究しているんでしょうか」
「忍び足でいなくなったのかな……今日の手伝い、いつも通り個々の整理でいいのかな?」
「ど、どうでしょう……」
えりかも顎に手を当てる。
「他の研究室に行っているかもしれませんけど……」
「あの人、他の研究室に行くことあるんだ」
「まあ、実験を行う時なんかはたまに。ここの下の階にいるかもしれません」
「じゃあ、移動しようか」
ハルトの提案に、えりかも頷いた。
巨大なネズミとコウモリが跋扈する廊下を抜け、エレベーターでさらに下の階へ移動。
エレベーターの扉が開いた時、ハルトは思わず後ずさりした。
「うわっ……なんだこれ?」
ファントムには、味覚がない。嗅覚も人間のそれと加えて大きく劣っている。
それなのに、この異臭にはハルトは鼻を
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