勘のいい子
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ラフラとした足取りで教授へ近づいていく。
「結梨ちゃんもホムンクルスで、えりかちゃんはサーヴァント……俺もファントムだし、この場にいるれっきとした人間はお前だけ……人間が、人間以外をその通りに扱ってる……だったら俺も、人間を襲う化け物らしく振る舞おうか」
それがハルトの意識から来る言葉なのかどうか、もう本人にも分からない。
赤い眼となったハルトは、そのままゆっくりと歩きだす。
眼から派生し、魔力が全身へ走っていく。肉体そのものが、実体を纏った魔力へと変わり行く。
ハルトの背中を突き破り、雄々しき翼が広がる。その足が巨大な柱となり、コンクリートの地面を踏みしめる。人類の特徴の一つである腕が、全てを切り裂く鉤爪へと変化する。
そしてその頭部は、あたかもワニのように細長く、獰猛な顔付き。それはまさに、神話の時代より蘇ったドラゴンの姿だった。
その特徴として際立つ、ドラゴンの背中。紫色の突起がいくつも並び、それが自然の産物ではないことを物語る。
ほとんど本能的に、ハルトだったドラゴンはその言葉を口にしてしまった。
「さあ……死の恐怖で絶望しろ……いっそのことお前がファントムになれば、遠慮なく倒せる……!」
「やめてください!」
腕を振るい上げたドラゴン。
だが、振り下ろされた爪は、六つの飛翔する機器が作り出す見えない盾によって阻まれた。
「やめてくださいそんなこと! 松菜さんが、それをする必要はありません!」
それは、えりかのセラフ。
手を付きだしたえりかは、重そうな足取りでドラゴンと教授の間に立つ。
ドラゴンは叫ぶ。
「どけ!」
「どきません! どいて、何をするつもりですか? 結梨ちゃんにかたき討ちでお父さんを倒したとでもいうつもりですか?」
「……」
はっきりと言われて、ドラゴンは動きを止める。
すると、唸り声が室内に響いてきた。
それは、結梨だった獣の声。教授を背にして、ドラゴンへ吠えている。やがて、数回吠え続けていると、その胸元から何かが零れ落ちる。
「……!」
それを見た途端、ドラゴンは自らの魔力を抑える。
みるみるうちに、その姿はハルトに戻っていく。力なくその場に倒れ込み、ハルトはそれを拾い上げた。
それは、ハルトが作った指輪。
元々指輪の失敗作であり、シストで交換する宝として使おうとしたがそれも失敗し、結果結梨へ渡したもの。結梨が気に入り、肌身離さず付けていたらしい指輪が、生物の体から零れ落ちてきた。
「……」
ハルトはそれを力なく拾い上げた。
ただ、茫然と。力なく。
指輪の光が、薄暗い研究室の僅かな光源を反射している。
それは、今の結梨の命の状態のようにも見えた。
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