42:人の本質
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口惜しそうな雄叫びと共に走り去っていった。
安心する暇も無く、ボクは一つの疑問が頭をよぎった。
ボクが圏内である村の中に吹き飛び、ヤツらが追い討ちをかけて来れなくなったのは分かった。だが……
……ボクは、今、『何』に吹き飛んだ? もたれている背に触れる、土とも壁とも違う、この柔らかな感触は何だ……?
まさか、こんな村の門前の路地に、綿の山などがあるはずが無い。
ボクは今度は首を動かそうとし、視界をさらに左右に広げようとした。と……
……視界の左右から何かが伸び出してきて、ボクのお腹をそっと取り囲んだ。
「な――」
んだ、と言い切る前に、それが何か分かった。
人の腕、だった。
人の腕が、ボクを後ろから包んでいた。いや……抱き締めていた。
なぜ、と思う前に――
「――きみっ、だいじょうぶ……!? 敵はっ……もう、去ったようね……」
という切迫した声が、頭上から響いてきた。
左右に振ろうとしていた頭を、その声の場所、頭上へと向ける。
若い、大人の女性だった。
ボクは、吹き飛んできたところをその女性に受け止められ、そして抱き締められていた。
そして……目が合った。
「……安心なさい。もう、だいじょうぶよ……」
心配そうに眉を八時に顰めながらも。
その人は……ふわりと微笑んだ。
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それは言葉通りに、ボクを安心させるかのように……優しく、ささやく様な響きで……とても――な言葉だった。
その言葉と共に、やがてその人の――が、抱き締める冷え切ったボクの体を――ていた。
ボクは、その目を見て――――
◆
「――ぁあっ、あぁぁあぁあああああっ……!!」
ボクは叫びながら、薄暗いこの森の中を逃げるように駆けていた。
それはもう、狂ったそれではなくなっていた。
……人の、泣き叫ぶそれになっていた。
ボクはあれから……助けられた女性に、自分の宿だという建物に連れられて、手厚く匿われた。
ボクはそれに耐え切れず……その日の夜、宿から抜け出した。
――――『あたたかかった』。
その人の言葉も。救われて抱き締められた時の体温も。宿の中の暖炉の火も。肩に被せてくれた毛布も。目の前に出されたコーヒーカップも。パスタの湯気も。
ボクは…………温められていた。
受け止められる直前まで感じていた、一瞬でこの心を真っ黒に染めた人を呪い祟る黒い感情が……一瞬で吹き払われてしまっていた。
なにより。
ボクは救われた時、その人の目を見て……
――――救われた。
そう、思ってしまった。
「あぁぁああぁっ!! ハァ……
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