42:人の本質
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――それからのボクを、正直、今でもよく思い出せない。
しかし。
いくつかの事は言える。
「……ァァア"ァァアア"ア"ッ!! ア"ァッ!! ァアアア"ア"ア"ア"ッ!!」
……ボクは、壊れてしまっていたんだと思う。
暗い森を狂犬の如く駆け走り、ただただ言葉にならない叫び声を吼えていた。
ボクは……その日を最後に、プレイヤー共の集まる町や村……つまり《圏内》には戻らなかった。
ただ、爆発し続けているかのような憎しみと悲しみの連鎖だけが、全ての原動力となっていた。
視界が、血に濡れたかのように常に赤かった。
頬は、いつも生ぬるい水で濡れていた。
理性などなかった。
己の安全など、微塵も省みてはいなかった。
なにせ……この時のボクは《自分のレベルよりも上の階層のモンスター共をひたすら殲滅していた》のだから。
ボクはその理由すら考えられず……ボクに襲い来る化け物共を相手に、その雄叫び以上の咆哮を上げて飛びかかっていた。
まるで……胸の内の尽きぬ怨嗟を八つ当たりして晴らすが如く、化け物共の頭に巨斧を次々と叩き込んでいた。
どちらがモンスターなのか分からないほどの、血で血を洗うおぞましい死闘が日常になった。
一日中、人気の無い暗いフィールドの中を叫びながら駆け巡り。
腹が減れば仕留めたモンスター共の肉を生のまま貪り。
圏外のフィールド上のまま、木陰に隠れて必要最低限のみ浅く眠り。
そして目覚めれば奇声をあげて森を駆け、襲い来る獣共を皆殺しにした。
敵の一撃を喰らっただけでHPバーが赤くなるのは当然だった。
ドロップ品の回復アイテムだけで、命を食い繋いでいた。
……まさに文字通り、自暴自棄になっていた。
――狂っていた。
分かっている。
……けど、憎くて憎くて憎くて悲しくて、たまらなかった。
ヤツらは、ボクから唯一の、一番大事なものを笑顔で奪った。
ボクが生まれてずっと信じてきたものを平気で裏切った。
だから、狂わずにいられなかった。
……この時のボクは、いつ野垂れ死んでもおかしくはなかっただろう。
…………しかし、ボクは武才に恵まれていたのか、それほどに怒り狂っていたのか……生き続けた。
安全マージンはおろか、健康や理性……命の危険すらも度外視した、その攻略組すらも遥かに凌駕する効率の狩りは……ボクのレベルを凄まじいまでの勢いで上げていった。
けれど、そのファンファーレがなる度に…………あの、ルビーの最期を、嫌が応にでも思い出してしまう。
「ァァァぁああっ!! 黙れっ、黙れぇぇえエエッ!!」
その度にボクはそう叫びながら、その度に募っていく憎しみと悲しみで、また次の獲物へと駆け出していた。
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