第三部 1979年
戦争の陰翳
国際諜報団
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あって、彼女の背中に抱き着いたのだ。
美久は自分が作った推論型AI搭載のアンドロイドである。
高度な学習システムで人間のような感情を持つのは知っていたが、秋津マサトに好意を抱ていたのは本当だったのだろうか。
マサキは自問自答していた。
もしマサトが最初から躊躇なく人を殺せる人間だったら、美久が人情を持つことは無かったのではないか。
人間の愛は、心を持たぬアンドロイドをも動かすことができる。
ならば、人間と機械の間の壁は、決して越えることは不可能ではない。
壁がある者同士が絆を結んでいくというアイリスディーナの考えも間違ってはいないのではないか。
共産圏の人物でありながら、アイリスディーナへの未練を断ち切ることのできない、愚かな人物という意見もあろう。
マサキは、理想と現実と、心と体の葛藤に一人悩まされていた。
スナックで待っていたのは、榊といつもの彼の取り巻きだった。
「こんな深夜になんだ」
言葉を切るとタバコに火をつけた。
「ハイネマン博士が何者かの車に乗って、失踪したとの匿名のタレコミがあった」
警保局長の瀧元は、簡単に事件のいきさつを述べた。
超高性能ミサイルを搭載可能な戦術機の設計技師の誘拐は、それ自体が国際問題である。
日本警察は、なにをしているのだろうか。
マサキはおもわず失笑した。
「これを見たまえ」
そういうなり、瀧本は上着の内ポケットから、封筒を取り出した。
黒髪に緑色の瞳をした壮年のスラブ人が写った数葉の写真を、机の上に並べる。
「ワシリー・アターエフ。
この男は、75年から続くモザンビーク内戦に参加しているGRU将校とされる。
今年に入ってから、イラクの共和国防衛隊の軍事顧問団に参加したと内務省では見ている」
写真には、それぞれカーキ色のイラク軍の軍服とモザンビーク解放戦線のトカゲ迷彩服が写っていた。
「この男は、ソ連戦略ロケット軍の少佐で、ヤンゲリ設計局の将校だったという話がある。
60年のネデリン事件の後、GRUにスカウトされて、工作員に転身した様だ。
今夕、アエロフロート機で伊丹国際空港に来たという情報を得た」
ネデリン事件とは、1960年10月24日にバイコヌール宇宙基地で発生したR-16ミサイルの自爆事故である。
ソ連の科学者サハロフによれば、ミサイル技術者が150名近く死に、ビデオカメラでその光景が録画されていたという。
「そろそろ京都市内に入って、GRU工作員と接触するとの情報を得た。
ハイネマン博士は、おそらく彼らに監禁されているのだろう」
マサキは、吸っていたホープをもみ消した。
「敵は外交官旅券を持つ連中だ。
日本国内に居るうちに処理になければ、我々も迂闊に手を出せない」
場面は変わって、京都
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