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冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
隠密作戦 その1
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たら、苦労はないんですけどね……」
 アターエフは言葉を切ると、口つきタバコの「カズベック」に火をつけた。 
煙草嫌いで知られる大野は顔をゆがめて、いかにも臭そうに紫煙を手であおいだ。
 その瞬間、部屋のドアが突如として開け放たれた。
「わ、若旦那、は、早く離れのほうへ」
「どうした」
 慌てて入ってきた警備員の方を向くなり、穂積は尋ねた。
「門番が全員殺されて、監視カメラも全部壊されています」
 続けて、別な警備員が穂積たちに注意を促す。
「まさかとは思いますが、とにかく離れの方に移ってください」
 穂積の顔色は、その途端、驚愕の色を浮かべる。

 御剣と彩峰が正面から乗り込んでいる最中、鎧衣とマサキ、美久は屋敷の中に潜り込んだ。
マサキは暗闇の中から、殺気を感じた。
「何だ、お前は!」
 目の前には坊主頭をした小柄の男がいた。
でっぷりと太った腹に、細い手足は、まるで株に棒を指したような不格好な姿だった。
 ここで騒がれては不味い。
そう考えたマサキは、板張りの廊下をすり足で距離を詰めていく。
 大野はズボンの中から60センチほどの刃渡りの大脇差を取り出した。
やくざ映画に出てくる長ドスのように椋木の鞘で覆われていた。
 刃先を向けて来る直前、マサキは切り合いは不利と見て、安全装置を解除した。
ほぼ同時にM16の槓杆を引き、引き金を絞る。
 しかし、それを察知したのか、大野は近くにあった障子を盾に避けた。
――しまった、一発目を外したか――
 マサキは内心焦った。
取り外した障子を盾にした大野は、一転して攻勢に出る。
 長脇差が一閃し、鋭い音で空気を切る。
牽制の意味での攻撃だったが、十分だった。
 マサキは距離を置きながら、冷静に大野の動きを見る。
脇差を右手だけで振るっているので、左側ががら空きだ。
 ここで大野を揶揄って、冷静さを失わせよう。
上手いタイミングを見て、銃剣で左胸の心臓を突けばいい。
「おまえは大野だな」
「なんだ」
 マサキは、不敵な意図のもとに、大野の顔が見える辺まで近づいた。
「お前のような奴は、宦官と呼ぶのがふさわしい」
 大野は怪訝な顔をする。
「宦官?」
「ソ連の様な悪の帝国に媚びを売り、小遣い稼ぎをするような奴は、機能無しの男女だろ。
確固たる信念を持たぬ男である貴様は、目先の利益しか考えない宦官以外に考えられるか」
 宦官とは、古代支那や中近東の王朝に見られた皇帝の身辺の世話をする後宮仕えの男である。
男女の過ちを防ぐため、男性機能を去勢させた男にあらざる男であった。
その代わり、国を傾ける様な富と権力を築くことに異常な執念を注いでいた存在であった。
 大野は、たちどころに憤怒した。
彼は肥満が原因で、男性機能が十分に発揮できなく
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