第四章
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「それでね」
「噛まずに飲み込む」
「そうして食べるのよ」
「それがあっちのお蕎麦の食べ方ですね」
「ざるそばでね」
「冬でざるそばは」
眉を曇らせてだ、三葉は言った。
「ちょっと」
「私もよ、今は特に寒いしね」
「暖かいお蕎麦がいいですね」
「もっと言えばおうどんね」
蜜柑は笑って話した。
「それがいいわね」
「お蕎麦よりも」
「それもあったかい」
「おつゆに入った」
「それがいいわね」
「そうですね」
三葉も確かにと頷いた。
「その方がいいですね」
「特に今はね」
「寒いですから」
「その方がいいけれど」
「出ますかね、そうしたおうどん」
「大阪だからね」
そのうどんの本場だからだというのだ。
「おうどんがいいわね」
「それもあったかい」
「あんかけうどんとか」
「いいですね」
「あればいいわね」
「注文して食べましょう」
二人でこんな話をして店に入った。屋台の席は三つあり全て空いていたのでそこに座った。そうしてだった。
前を見るとだ、店の親父がいた。
「何にするんや?」
「あれっ、人がいるわね」
「お店の人が」
二人は初老のその親父、背中を向けている彼を見て言った。
「ちゃんといますね」
「そうね」
「そこが違うわね」
「本所のと」
「いや、待って」
だがここで蜜柑は親父がこちらを振り向かないことに気付いて言った。
「この場合は。親父さんこっちを向かないから」
「そうなると、ですね」
「ええ、これはね」
「小泉八雲さんの小説の」
「貉ね」
「のっぺらぼうですね」
「もう知ってるんかい」
ここで親父が振り向いた、するとまさにのっぺらぼうだった。
「おもろないな」
「いや、もう有名ですから」
「皆知ってますよ」
二人はのっぺらぼうの親父に笑って返した。
「こんな顔かい?って」
「振り向いたらって」
「その前に出てきていて」
「びっくりして逃げた人が屋台に飛び込んできてですから」
「あまりにも有名な小説で」
「本当に皆知っています」
「そうやねんな、まあ襲うことはせんから安心してええわ」
別にというのだった。
「逆にお金払ったらな」
「お蕎麦食べていいのね」
「そうなんですね」
「ああ、蕎麦もあるけどな」
のっぺらぼうはそれでもと話した。
「うちはうどんが主流や」
「大阪だからですね」
蜜柑はそれでと応えた。
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