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逆さの砂時計
アンサンブルを始めよう 3
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、可能な限り穏当に、さりげなく教えるつもりだったのだけど。
 こうまで堂々と衆目に曝されてしまっては、誤魔化すのも難しい。
 諦めよう。

「…………マヂか」
「えぇー……」
「……ま、魔王が……女、じゃと……」

 背後に聴こえる、殿下達の呆気にとられた声。
 元の造形美を絶妙に残しながらも髪を腰に流し、妖艶な雰囲気を醸し出す三十代前半の美女と化したレゾネクトが、私を見て不思議そうに瞬く。

「性別を変えただけだが、何かおかしいのか?」
(ええ、っと……まあ……現代の人間には、結構な非常識だと思いますよ。他ではどうか知りませんが)
「植物や虫や微生物の世界では普通だが」

 植物や虫や微生物と貴方を同次元に並べるのは、ちょっと。
 骨格が変わったせいか声まで艶を含んだ女声だし、なんて考えていたら。
 少し離れた場所で、重い荷物を地面に落としたような音が聞こえた。
 まさかと振り向いた先で、ロザリアが仰向けに倒れている。

(ろ、ろざりあーっ!)

 慌てて駆け寄り、肩を抱き起こしてみるも。
 ロザリアの意識は完全に飛んでいた。

「幻覚の類いじゃないんだな。ご愁傷様、としか言えん」
「無性別なのか両性具有なのか。子孫を残してるから、両性具有なのかな」
「口伝では魔王は男だと。では、あれは偽物か?? しかし、あの気配はっ」
「それで? 俺はどうすれば良いんだ?」

 本来居てはいけない場所に居る人間の権力者。
 女神の力を封印している人間の女性。
 落ち着きなくあたふたしているエルフの少女。
 真実の衝撃に耐え切れなくなって気絶した女神。
 天然な一面を見せつけてくれる元魔王。
 巨大な木の根を降りるのも一苦労な無力すぎる私。

 なんかもう、滅茶苦茶だ。
 こんな調子では、今ロザリアを強引に起こしても、女性姿のレゾネクトを視界に入れた瞬間に気絶、を延々とくり返しそうな気がするし。
 どうすれば良いのかと尋かれても……
 どうすれば良いんでしょうね?

(とりあえず、私の声を戻していただけますか? 今後について、殿下方と話し合わなければいけませんし。一応、貴方も同席してください)
「分かった。ところで、口付けがどうとかは、もう良いのか?」

 まだ引きますか、その話。

「両性類に対応する()()は無いだろ。消化不良は否めないが、教育的指導にならないんじゃ無意味だ。誰彼構わず喰らいつくもんじゃないってコトだけ覚えておけば良いさ。ああでも、ロザリアとアリアが起きてる間くらいは、男の姿になっとけ。さすがに気の毒だ」
「前半はともかく後半は気にすることでもないと思うが。そうしておこう」
「いや、娘の気持ちは気に掛けてやれ。いくらなんでも不憫が過ぎるぞ」

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