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逆さの砂時計
アンサンブルを始めよう 3
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にレゾネクトを放置した殿下が、自身の服の(そで)で唇を乱暴に拭いながら、フィレスさんの隣に並び立った。

 殿下の宣告で真っ先に正気を取り戻したフィレスさんが、それでもまだ、戸惑いを隠し切れていない表情で、ぎこちなく頷く。

「あのですね、師範。驚きはあっても嫌悪感とか恐怖は感じなかったから、私は()()()()()()()()()()んじゃないかと思うんですが」
「だろうな。お前が根っからの騎士で、こういう方面に疎いのは知ってる。どうせその時は、まさか自分に口付ける異性が存在するとは思わなかった。だから驚いた。程度だったんだろ?」
「はい」
「認めちゃうんだ」

 ロザリアが引き攣った顔で一歩下がった。
 似たような状況? で、嫌悪以外を感じなかったであろうロザリアには、フィレスさんの反応が信じられないのかも知れない。

「大多数の人間は、出会い頭に口付けなんかされたら、著しく気分を害するモンなんだよ。相手が異性なら尚更な。お前もそのうち解る。つか、解れ。んで、(俺以外には)二度と誰にもさせるな! 俺が不愉快だ!」
「はあ。元より、そのつもりですが……(何故、師範が不愉快に?)」
「ならば良し!」

 お二人共、心の声が駄々洩れです。
 なんて分かりやすい構図。
 殿下の最重要目的とはつまり、想い人がされたことへの仕返しだったと。
 アリア信仰や国政に関わる仕事で来たわけではないのだろうか。

「…………男のままで良いのか?」
「へ?」

 棒立ちで殿下を見ていたレゾネクトが、小首を傾げた。

「お前の言い分は、見知らぬ異性(おれ)に突然口付けられた人間(フィレス)の気持ちを考えろというものだろう? だったら、『男』のお前が思い知らせるべき俺は、『女』であるべきじゃないのか?」
「「「「……は?」」」」
(…………あ。しまった!)

 いけない! と、焦って足を動かすが。
 時、既に遅し。
 目が点になった一同の前で、持ち上げられたレゾネクトの右腕が、正面の空間を裂くようにストンッと下ろされる。
 その動作で目を奪われた隙に

「これなら条件に合うか?」

 レゾネクトの体が。
 黒い上下服の輪郭を変えてしまうほど、はっきりと。
 成熟した()()()()()変わった。

(実のところ『彼女』の意思を受けて男性になっていただけで、『彼女』と『彼女』を映した『鏡』に、確固たる性別は無いんですよね……)

 男性姿のレゾネクトに危害を加えられていたマリアさんや、レゾネクトの娘に当たるロザリアが、こんな事実を知ってしまったら、どうなるのか。
 私には想像も及ばなかったので、いつか
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