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逆さの砂時計
アンサンブルを始めよう 2
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甘やかして。
 自分達への警戒心や反抗心を育てさせないように、自分達にとって都合が悪いことや苦痛が伴う醜い側面はギリギリまで隠し続けて。
 他に居場所はないんだと疑わなくなるまで心底懐かせ、逃げ道を絶って。
 んで、適齢期になったら、お役目だからとかなんとか言って、問答無用で押し付けるつもりだったんだろ?

「ホント胸クソ悪ぃな、お前ら。コイツを便利な道具と間違えてねえか?」
「……っ!」
「私は私を自覚した時点で、結構散々な目に遭ってたし、世界の汚らしさに対する耐性も、警戒心も、対処方法も、諦めも反抗心も、全部実地で学んで身に付いてたから、今でも平然としてられるけどさ。リーシェは無知なまま三百年間も大切に大切に囲い込まれてたおかげで……ほら、見ろよ。この、恐怖と嫌悪に染まり切った弱々しい姿。お前らの顔なんざ汚らしくて視界に入れたくもないんだと。可哀想になあ?」

 こうなったのは、私が映像を()()()からじゃない。
 お前らがコイツを道具扱いして現実を教えず学ばせず、自分自身で考える力を削ぎ、選択肢すら一つとして与えてこなかった結果だ。

「子供を産ませるどころの話じゃなくなっただろうが、そんなもんは完全にお前らの自業自得だよ。バァーカ!」

 震え泣く肩を抱えて純白の髪を優しく撫でていたロザリアの手が、長様へ向かって、邪魔者を追い払うように『しっしっ』と動く。
 バカにされた怒りで血の巡りが偏ったのか、彼の顔が瞬時に赤くなった。

「曲がりなりにも神々に遣わされし聖天女(せいてんにょ)の娘でありながら、我ら世界樹の護り手を滅ぼすつもりか!」
「……はっ! お前らなんか、どうなろうが知ったこっちゃない。けど」

 お前は『聖杯』を使わなかった。
 手順を省けばどうなるかを知ってて、()()()そうした。
 アリアとクロスツェルが接触する機会を増やす為だけに。
 弱ってたクロスツェルの魂を、エサとして更に弱らせたんだ。

「そうだよ。私達はクロスツェルもべゼドラも絶対に死なせたくなかった。そこを突いたお前の判断は憎たらしいほどに正しかった。だから、コイツはその礼だ。クロスツェルの魂を体よく利用して消耗させた分だけ、お前らもとことん焦って苦しめ! くそったれが??」

 『聖杯』?
 ……もしかして、()()のことだろうか。
 クロスツェルの記憶よりも、ずっとずっと遠くに感じる心当たり。

 騎士団長殿を通して国王陛下に呼び出された王城の一室で、神々に直接『使命を果たす覚悟があるのなら飲め』と言われて授けられた、無味無臭で半透明な赤い液体を湛える銀色の杯。
 飲み干した直後、心臓を無理矢理拡げられていくような激痛と、体内から燃やされているような高
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