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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 53
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 今日は、ミートリッテがネアウィック村で眠る、最後の日。

「麦酒! こっちに三本ちょうだい!」
「はーいっ!」
「生魚が切れたー! ちゃちゃっと素潜りで獲ってこいよ、クナートぉ」
「アホか! てめぇで獲ってこいや??」
「はいはい。冗談はそこまでだよ、バカ男共! 食器類は自分で下げな!」
「俺ら、酔っ払ってるからムリでーっす!」
「そーそー。焼き鳥を乗っけてた皿なんか運んでたら、千鳥足で一枚残らずバリンバリンに割っちまうぞ! なんてな??」
「「がはははは??」」
「ほほう。明日から砂の上で生魚掻っ捌いてそのまま口の中にねじ込んでも良いって言うんだね? いーい度胸してんじゃないのさ、ああん?」
「「ワルノリシマシタ。スミマセン」」

 欠けた月が輝く、夜の中央広場。
 村の人達や村人姿の騎士達が、地面や階段に座り込み。
 闇の訪れを拒むが如く、炎を灯した大量の松明に囲まれ。
 酒や果実水を片手に料理をつまみながら、歓喜の声を響かせている。

「あら? 神父様は?」
「さっきはあっちに居たわよ」
「ねー! ミートリッテ、こっちに来てないー? 料理をいくつか追加して欲しいんだけどおー!」
「ああ、ごめんなさい! ミートリッテはしばらくの間、席を外してるの。エルーラン殿下と神父様から話があるんですって。私が代わりに作るわね」
「私も、お手伝いして良いですか? ハウィスさん」
「! ……ええ、お願いするわ。一緒に作りましょうね……アルフィン」

 それは、仲間の無事と回復を喜ぶ宴。
 再会した同朋の旅立ちを祝う宴。
 家族との別れを惜しむ宴。

 けれど、主賓の一人でありながら料理人という不思議な大仕事に区切りをつけたミートリッテは、盛り上がる人の波をこっそり抜け出し、村外にある騎士達の隠し拠点へと案内されていた。

 ひんやりした空気に包まれている、石造りの狭い地下通路へと下り。
 腕一本もまともに通せない、黒い鉄格子の正面に立つ。
 ミートリッテの右隣には、燭台を持つ神父姿のアーレスト。
 左隣には、同じく燭台を持つ村人姿のエルーラン王子が並ぶ。

「イオーネ」
「…………」

 冷たい境の向こうで簡素なパイプベッドに腰掛けている村人姿の女性は、何も言わず何もせず、ただただ、こちらをジッと睨みつけている。

 正確には、何も言わないのではなく、()()()()()()
 桃の果汁を使った暗示によって、声が出せない状態にされていた。

 返事ができないと知っているのに呼びかけたのは、これから並べる言葉にイオーネの意識を引き付ける為だ。

「話は全部聴いたよ。あなたが元はシアルーン男爵家当主に引き取られて、ウェミアさんとは姉妹のように育
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