Side Story
少女怪盗と仮面の神父 52
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波の音が聴こえる。
風に流され、浜に乗り上げ、砂を攫って沖へ帰る、涼やかな水の音。
遠く離れた場所から聴くだけでも、波打ち際の壮大な景色が思い浮かぶ、不思議な子守歌だ。
「ああ──……飛び込みたいぃ〜〜。泳ぎたぁあ〜〜いぃ〜〜」
「ダ・メ・よ。足裏の傷も完治してないのに、海水に入ってどうするの! 痛いだけよ? 溺れて皆さんに心配を掛けたくないでしょう? これからが本番なんだから、だらけてないでシャキッとしなさい、シャキッと!」
「解ってますけどぉ〜〜。でも、もう……いろいろ、限界……」
ペンを右手に持ったまま。
記入済みの書類が山積する机の上に上半身をパタッと倒すミートリッテ。
斜め後ろに立つ神父姿のアーレストが、呆れた様子で両肩を持ち上げた。
「仕方ないわねえ。少しだけ寝かせてあげましょうか? ここで。今すぐ」
「いいえ結構です! 疲れてなんかいませんよ私! ほらほら見て見て! もーすっごく意欲満々で、落ち着かないったらありゃしないっ! さーて、次のお役目頑張っちゃうぞ?? 善は急げだ、行ってきまーすっ??」
三回も四回も寝顔を覗かれて堪るか!
ただでさえ執務室に二人きり、なんて世にも恐ろしい状況だというのに、アーレストの前でスヨスヨ寝てましたあ〜などと女衆に知れたら、いったいどんな目に遭わされるか。考えたくもない。
ぐぁばっ! と勢いよく立ち上がってペンを放り出し。
礼拝堂へと走……りはせずに、早足で移動する。
「難儀な娘ねぇ」
背後で零れるため息交じりのセリフにも、「お前のせいだぁああ??」とは突っ込まない自分。短期間でずいぶん大人になったよねぇ。
日々これ成長だ。うんうん。
一時間ほど前、数日ぶりに再会した瞬間、アーレストの鼻っ柱を目がけて振り上げた握り拳があっさりと避けられた件はもう、ワスレマシタ。
くそうっ!
「ふっ……はーぁっ! 気持ち良いぃ〜〜……」
無人の礼拝堂と正面の扉を潜り抜け。
白銀のアーチへ向かって、アプローチをまっすぐに進む。
時折背後から襲ってくる木の葉はやっぱり痛いが、強めに吹く風は疲れで火照った体に心地好い。
「んむ。平穏無事が一番だぁわぁあ〜〜……あぁふ」
菜園と繋がる坂道の途中で一旦立ち止まり。
両の拳を天に突き上げて、ぐぐぐーっ と背筋を伸ばす。
見渡す空は青く高く、雲は白く厚く。
山は深い緑に彩られ、海は陽光を反射してキラキラ輝き。
暗殺組織が潜伏していた時の息詰まるような緊迫した空気はどこへやら、ここ数日のネアウィック村には、子供達の笑い声と大人達の囁きが絶えず、常よりも活気に満ち溢れている。
特に今日は、朝陽が顔を出す前から、とっても賑やか
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