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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 52
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ふと、彼の数歩分先で振り返り、首を傾ける。

「あ。そうだ、ピッシュさん」
「ん?」

「マーシャルさんの誘いを断ったのは、ハウィスが怖かったからですか?」

 ハウィスは、マーシャルを含めたブルーローズの総人数を『十四人』。
 表舞台に出ていたのは『十三人』だと言い切った。
 イオーネも、ブルーローズは『十三人』だと思っていた節がある。
 だとしたら、表舞台に出ず、イオーネに認識されなかった残りの一人は、どこへ行ったのか? ブルーローズ内で何をしていたのか?
 マーシャルに手を出さなかったらしい構成員との関係は?

 様々な情報を吟味した上での推測でしかなかったのだが。
 ピッシュは間髪を容れず「まさか」と笑った。

「ハウィスを愛してるからだ」

 これこそまさかの、ド直球。

「男性ってこういう時、態度で察しろとか女性を超能力者扱いするものだと思ってました。けど、肝心なハウィスには何も言ってないんですよね?」
「ただでさえ、守りが堅かったからな。今じゃ立派な子持ちだし。正面から切り込んでも勝てる気がしない」
「おおぅ、なんとも反応しづらい現実! じゃあ、村に残ったのも」
「いや、それは趣味が実益を兼ねてたってトコだ。姐さんと知り合う前に、植物学者から農業の基礎を学ぶ機会があったんだよ。それ以来、勉強自体が楽しくてな。姐さん達の所でも頭脳派を気取ってた。で、ネアウィック村に移住してきた後は、この知識と、異様に鋭い嗅覚を当時の村長に買われて、あの農園を任されたってワケ。村の人間に獲られるくらいならあわよくばと思わなくもなかったが、未婚の母はさすがに予想外だったな」
「あははー……申し訳ありませんっ!」
「いや。こんなに可愛い娘なら大歓迎だ。いつでも帰っておいで」

 坂道の上方から頭を下げる仮の従業員に。
 雇い主は、ふんわりと微笑みながら右手を差し出した。
 さりげなく付け加えられた言葉で、うっかり眼球が潤みそうになる。

「……お母さんを、よろしくお願いします!」

 上半身を跳ね起こした勢いのまま彼の手を両手で握り。
 ぐぐっと力を籠めた。

「ん。任された」

 彼も、痛くない程度の力で応じてくれる。

「さて。それじゃ、役目を果たしに行くか。着替えは持ってきてるのか? 長衣のままじゃ動きづらいだろ」

 いつかどこかで再会した時は、四人家族になっていたら良いな、と

「大丈夫です! 下に作業着を着込んでおいたので!」
「……この暑い時期に重ね着なんかしてて、よく倒れなかったな」
「それは自分でも、早まったなあ〜とは思ってました」

 風に揺れる木々の狭間で、そんな綺麗な、夢を見る。


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