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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 52
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大きく、香り良く育った時の感動と言ったら、もう……! ああ〜〜……続けたかったなあ……」
「そうは言っても、果実の手入れより大切な仕事が見つかったんだろ?」
「はい。だから、甘えん坊な三つ葉の根を大好きな畑から引っこ抜かなきゃいけないんです。遠慮なく放り投げてくださいね? ()()()()()()()()()()()()()()
「んんー。なかなか心が痛むなぁ」

 晴れ晴れした笑顔を見せつけて「大丈夫ですよ」と言っても。
 彼は、苦笑いで唇の端を持ち上げるだけ。

 関係者からの示唆(しさ)は一切なかったが、しかし。
 語られた事実と、現状と、自分で持ち歩いていた証拠の数々が。
 優しくも罪深い真実を、ミートリッテに向けて指し示していた。
 なら、彼にも伝えるべき言葉が残っている。

「甘やかしちゃいけません! 甘やかされた三つ葉は爆発的に数を増やし、将来的には農作物にも悪影響です。実際、風に飛ばされた種子の悪戯とか、目に余るものがあったでしょう?」
「いや。ウチから飛んでった種子かどうかを疑われたのは確かだが、果樹園自体の潔白はすぐに証明されてたし。なにより手土産に持参したオレンジの実や副産品を気に入ってくれる方が多くてな。拡がった風評被害と同じだけ注文数が増加してくもんだから正直かなり助かってた。被害者が出てる話で無神経だとは思うけど、従業員の給料を増やせてたのは大きいぞ」
「なんとっ??」

 彼にも大迷惑だったシャムロックの行為は、一方で利益向上ともしっかり結び付いていたらしい。
 無論それは、彼のオレンジに対する真摯な愛情と、たくましい商売根性があってこその結果だが。

「え。じゃあ、ピッシュさんがくれたあのマーマレードには、特に他意とかなくて、本当に」
「単なる()()だ。先日も新規で大口の契約が結べたから」
「ふえぇ。私はてっきり偉い人の密命で目印代わりに持たされてたのかと。事象の逆算だけじゃ判らないものですねぇ」
「計画と目標は、ある程度望み通りの結果を引き寄せるが、結果から偶然と必然を()り分けるのは至難の業だからな。決定的な間違いを犯さないよう、思い込みには注意しておけ。これ、経験者からの助言。」
「すごく勉強になります! でもやっぱり、土に含まれてる栄養には限りがあるんですから、三つ葉の分は実りある作物へ回してください。私は遠くでみんなの様子を満足気に眺めてますから。ね?」
「……了解。ま、頑張れ」
「はい! 今まで本当に、ありがとうございました!」

 髪をくしゃくしゃに撫でられ、嬉しさと気恥ずかしさとほんの少し混じる寂しさを誤魔化すように、歩く速度を上げて前へ進み。
 
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