第三章
[8]前話
絶対にないと確信していた、だが。
「あの」
「何だ、一体」
「今こちらに来たのですが」
中性的な外見の少年だった、あどけなくそれでいて非常に美しい外見だ。その少年が法官に言うのだった。
「ドロテア様に最後の差し入れで」
「差し入れだと」
「この二つを」
「何っ、それは」
法官は少年が差し出した籠の中にあるものを見て驚いた、何とそこには。
薔薇と林檎があった、今彼が言ったその二つだ。どちらも深紅の美を見せている。
少年はドロテアにその二つを差し出して言った。
「どうぞこれを」
「神からですね」
「はい、まさに」
少年はその通りだと答えた。
「私をつかわしてくれました」
「有り難うございます、では」
「次は神の御前で」
少年は礼儀正しく述べた、そうしてだった。
ドロテアに一礼するとまるで風の様に何処かに消えた、処刑場にいたローマの官吏や兵達が何かするよりも早くだ。
消え去った、法官はその少年はまさかと思いつつドロテアに問うた。
「この二つは」
「確かに来ましたね」
「信じられない、こんなことがあるとは」
「これが神の御業です」
ドロテアは微笑んで答えた。
「奇蹟をもたらしてくれるのです」
「では神は」
「真の神です、ではこの二つを他の方々と共に頂いて宜しいでしょうか」
ドロテアは他の殉教者達を見つつ法官に問うた。
「そうしても」
「う、うむ」
法官は奇蹟に驚きつつも冷静さを保って答えた。
「それではな」
「はい、では」
ドロテアは静かに頷いた、そしてだった。
他の殉教者達に薔薇と林檎を分け共に飾り口にしてからだった。
自ら進んで処刑の場に着いた、そのうえで処刑されたのだった。
それを見届けた法官は後に。
「そなたもか」
「はい」
総督に十字架を見せて答えた。
「この通りです」
「棄教しないか」
「そのつもりはありません」
「わかった、では仕方ない」
総督は彼を処刑する様に命じた、そして彼も処刑場に入ったが。
少年は彼にもその二つを差し出して言った。
「どうぞ」
「はい、それでは」
「神の御前で」
こう言って消えた、そしてだった。
法官もまた薔薇で飾り林檎を食べた、そのうえで微笑みドロテアに続いた。キリスト教が認められる前の話である。
花と果物 完
2024・8・12
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