第二章
[8]前話
「そうだね」
「第二次世界大戦の時も」
「この辺りでもね」
茶水は機首から真っ逆さまに海底に落ちているその航空機、レシプロの単葉機を見て話した。
「海戦があったからね」
「だからですね」
「撃墜されたんだろうね」
それでというのだ。
「ここまで沈んできたんだ」
「そうですか」
「見れば」
茶水は潜水艇の窓から海底を見つつ言った。
「他にも航空機の残骸があるね」
「軍艦もありますね」
「海戦があったからね」
「撃墜されて撃沈されて」
「ここまでね」
深海の底までというのだ。
「沈んできたんだ」
「それで今ここにあるんですね」
「そうだよ、絶対に沢山の人も死んだし」
「乗っていた人達が」
「だからね」
それでというのだ。
「ここは墓場でもあるね」
「戦死した人達の」
「航空機や艦載機のね」
「そうなんですね」
「形から見て日本軍のかな」
茶水は川瀬にその航空機や軍艦の残骸を見つつ話した。
「これは」
「我が国のですか」
「そうかな、しかしね」
「しかし?」
「うん、ここは墓標だから」
それでとだ、茶水は神妙な顔になって述べた。
「戦死した人達の冥福を祈らないとね」
「そうですね、戦争があってここに眠っているなら」
「それならね」
「そうですね、深海の生きものや海域、地質の研究もいいですが」
「それでもね」
「亡くなった人達のことも悼む」
「その気持ちもないとね」
そうでなければというのだ。
「だから今から黙祷しようか」
「戦死した人達に対して」
「航空機や艦艇にもね」
「そうしますか」
「そうしよう、皆でね」
「わかりました」
川瀬も他の潜水艇に乗り込んでいた者達もだった。
茶水の言葉に頷いた、そうしてだった。
潜水艇に乗り込んでいる者全員で戦死した人達そして使われていた兵器達に黙祷した、そのうえでだった。
調査を再開した、以後日本の調査チームが潜水艇でこの深海に入った時は黙祷をする様になった。そこに眠っている魂達に対して。
海底にあるもの 完
2024・7・12
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