第六章 贖罪の炎赤石
第二話 姉妹
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夜が明けきる前。
空に月はなく、かと言って太陽の姿もない。
微かに残った星明りが、唯一の明かりである。
そんな時間帯。
天を突き刺す槍のような針葉樹の森の中、明かり一つない暗闇の中から、風を切る音が響いていた。
響く音は速く鋭く、聞いた耳が切り裂かれるかのような気さえする。
小さく吹いた風が、微かに枝を揺らし、僅かに出来た隙間から、星明りが差し込む。闇を切り裂くように差した光は、風を切るものの正体を露わにする。
「フッ」
光の下に曝け出されるが、男は気にすることなく両の手に持った剣を振るう。手にする剣は黒と白の夫婦剣。霞むほどの速度で両の手がバラバラに動く。誰か見るものがいれば、腕が絡まらないかと心配になる程の動きだ。右が突きを放てば左は切り払い。左が袈裟斬りすれば右は振り上げる。どれ一つとして同じ動きはなく、一見して滅茶苦茶に振り回しているように見えるが、振るわれる剣先にブレはなく、動きの一つ一つは洗練されていた。
流れるような動き。男の動きを一言で言えばそのようなものだろう。剣を振るう手だけでなく、身体も一度も動きが止まらない。淀みなく動く男の足元には柔らかな土。しかし、濡れて泥濘む土に、男の足跡はない。男の身体の動きは遅くはない。いや、それどころか速い。瞬きすれば別の場所にいるほどの速さだ。なのに足跡はない。
「ッ! フッ!」
剣を立て両手を軽く広げた形で男は動きを止めた。
「……信じる……か」
あったばかりの頃は、周りに認めてもらおうと常に余裕がなく、何かに急き立てられているかのようだったルイズは、今は大分落ち着き、硬い表情も随分と柔らかくなり。最近は良く笑うようになった。
『シロウ、ここは私だけで十分だ。君は君を求める人達の所へ早く行け』
剣が動く。
右から左に。
周囲に認められようと無茶をしていた以前とは、今は肝を冷やすような行動を取ることも少なくなってきた。人の話もよく聞いてくれるようになったし、言うもこともよく聞いてくれる。
『この私を信じないのか君は? 私は君を信じているというのに』
「……信じていた……ッ!」
唸りを上げ剣が空を裂く。
悲鳴のような音が木々を揺らす。
もともとルイズは頭が良く、運動神経もいい。弱点だった魔法も自分の系統である『虚無』に目覚めてからは問題はなくなった。
『なぜだって? ……さあ? なぜだろう……私にもわからない……ぁぁ……そうか……わからないのが理由なんだ……な』
「……俺は……ッ! ……ッ!」
泥濘んだ土が宙を舞い、めくり上がった土の中から木の根が露出する。男が踏み込むたびに木々が揺れ葉が空を舞う。
アンリエッタがアルビオンに攻め入るというのは
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