第二部まつりごとの季節
第二十七話 馬堂豊久と午前の茶会
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うものは自身にも当てはまるものである。
さて、ここでの周囲を見渡すと、ある恐ろしい事実が浮かび上がる。
――まともな女性関係を築いている人間が妙に少なく恐妻家か淡白な独身主義者ばかりなのだ。所謂、色男と言えば佐脇俊兼くらいであった。
先の俚諺の法則に従って馬堂豊久自身も女性遍歴はほぼ白紙であり、哀しいかな悪い兄貴分に教えられた悪所通い以外では知る女性の扱い方は為政者としての無能さを指摘する程度しか無いのだ。
故に――豊久にとって女性関係は最も苦手な類の面倒であった。
「本当に――哀しいです。」
柔和でどこか幼い顔つきとそれに反した人を見透かす様な深い井戸の様な静かな光を湛えた眼――豊久がこの世で苦手な人間上位十名に入る女性にして故州伯爵家の次女――弓月茜である。
「私は――貴方の許嫁のつもりでしたが」
寂しげな表情を浮かべて静かに詰問されると豊久の頬をだらだらと脂汗が流れる。その勢いは某逆転弁護士にも勝てるかもしれない。
「いえ、その――」
北領でメレンティンやユーリアとやりあった時とは違い、弁舌を振るうこともなく萎縮している。
――この女はある意味ではユーリア殿下より怖い。何しろこの件に関しては俺が全面的に悪い。つまり丸腰なのだ、主に理論武装的な意味で。
「御家が大変な事は私でも分かります。ですがあまりにも――」
理路整然と続く説教と恨み言と労りを複雑に混ぜ込んだ言葉。悪意を欠片も見せない顔から投げかけられるその言葉は的確になけなしの良心を抉り出す。
――もう戦略的優位は彼女の手にある。主導権を握られてしまった以上やむを得まい――俺がまともに連絡しないのが悪いのだが。
人間とは真に不合理なものである、と一般化しながら豊久は深々と頭を下げる
「――本当に申し訳ありません。」。
――もう俺が婚約をずるずると長引かせているのにこの女(ひと)は嫌な顔一つしないで待っている。俺の我儘に付き合わせている様なものなのだから頭が上がらない。
「いえ、私も感情的になりすぎました。」
ふっと口元を緩めて茜も説教を終えた。
――嘘だ、と叫びたいがそれを言った後の事を考えると怖い。それに心配させてしまったのは本当なのだ。
「申し訳ありません、心配させてしまいましたね。」
先程よりも砕けた口調で再び謝罪しながら杯に口をつけると、濃い黒茶の苦味が滲みる。主に心に。
「俘虜でも、御無事だったと聞いた時には――二度とあんな思いはしたくないです」
――いかん、心が折れそうだ、そろそろ全自動土下座の発作が起きてしまう。
たらたらと冷や汗を流し続けながら、何度目かの謝罪を行う。
「申し訳ありませんが、どうやらまた前線送りになりそうです。
後方勤務に戻れるかと思いましたが。どうに
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