第三部 1979年
戦争の陰翳
柵 その4
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本能であると、なぜ気が付かないのか。
マサキは深い憂慮の念とともに、ため息をついた。
一斉にテーブルに置いてあるグラスに、琥珀色の液体が注がれる。
篁とマサキのグラスはコニャックで、ミラとアイリスディーナのグラスはジンジャエールだった。
「それでは乾杯!」
乾杯をすると、一斉にワイングラスを傾ける。
コニャックをおいしそうに飲むマサキを見ながら、興味を示した。
「私も、ちょっと試しに飲んでもいいかな」
「アイリスディーナさん、19歳でしょ?
貴方には、まだ早いわ」
これはミラなりの配慮だった。
未成年者のアイリスディーナに酒を出してはいけないという、如何にも清教徒の米人らしい発想だった。
「私は19歳です。子供じゃありません」
アイリスディーナは、東独の法律ではすでに成人年齢である18歳だったので、この配慮に違和感を感じた。
ミラの言に対し、マサキが補足するようなことを口走る。
「東ドイツでは18歳が成人かもしれんが、日本では20歳、米国では21歳だ。
ローマではローマ人のなすようになせとの諺もある。
アイリスディーナ、素直に応じるべきだな」
マサキの表情は、いつになく真剣だった。
ユルゲンとアイリスディーナの父、ヨーゼフがアルコール中毒に因る不具廃疾になっていたからである。
ここできつく戒めておかねばならないという、老婆心からだった。
「若すぎる飲酒は、まず大脳皮質を委縮させ、知能の低下を生じさせる。
肝臓や膵臓といった様々な内臓を痛め、一生涯苦しむ遠因になる。
何より、内分泌機能に異常を生じさせやすくなる……
簡単に言えば、月経不順になりやすく、若年不妊や流産や早産の危険性を増大させる。
つまりは、欲しい時に、望んだときに子供が出来ない体になる可能性が高い……
お前のような優れた女が、子を持つことすらできないのは非常な損失だ。
社会にとっての、いや国家にとっての、俺にとっての損失だ」
アイリスディーナの頬は、見る見るうちにリンゴのように赤くなった。
きわどい話をしているのはマサキなのに、聞いているアイリスディーナの方が恥ずかしくなった。
「米国での43000人に実施した疫学調査では、若年期の飲酒はアルコール中毒になりやすいという結果が出ている。
そして多量の飲酒は、不適切な性行動を誘発しやすく、またそういった事例に巻き込まれやすい。
望まぬ相手に、操を奪われるような真似はしたくもなかろう」
脇で聞いていたミラは、酔ったように顔を赤くする。
他人がいるときにしていい話だろうかという気持ちに、ミラはおちいっていたのだ。
「つまり、未成年の不適切な飲酒の影響は、非常に大きい。
本人の心身の健康障害だけでなく、その家族や
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