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冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
隠密作戦 その4
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様に、男は前のめりに崩れ落ちた。
白銀は、止めとして、倒れた男の両手足を持っている細引きで縛り上げた。
 これは戦いの鉄則である。
長い実戦経験を持つ白銀はこれを忘れなかった。
 遅れてきた警察に一部始終を話すと、生き残った工作員全員を引き渡す。
警察と消防の事情聴取が終わる事には、すでに夜が明けた後だった。

 




 場面は変わって、ハイネマン救出作戦が行われている同時刻の京都。
五摂家の一つである斉御司(さいおんじ)の邸宅では、密議が凝らされていた。
 薄暗い室内で、男たちは酒を酌み交わしながら、九條の件に関して話を進めていた。
「いかが、思われますか」
 薄い茶色の軍服姿の男は、上座に居る単仕立ての小袖を着た男に問いかけた。
軍服姿の男は大伴中尉で、小袖姿の男は斉御司(さいおんじ)の当主だった。
「木原の事か」 
 大伴の言葉に、斉御司は失笑を漏らした。
 斉御司は何か企み事があると、笑みを浮かべる癖がある。
大伴も、斉御司に倣い、わずかに笑みを浮かべた。
「先ほどの間者の報告からすると、このままではもはや勝負あったも同然……」
 斉御司は、大伴の言葉に失笑を漏らす。
「いやいや、ソ連にも知恵者は多い。
まだまだ、国内は大揺れに揺れる」
 斉御司は笑みを消して答えた。
大伴も彼に合わせて、真剣な表情になった。
「揺れなければ、どうしても揺らさねばなりません」
 斉御司は言葉を切ると、タバコに火をつけた。
「その時こそ、将軍ご親政の好機でございます」

 斉御司たちの狙いは、元帥府による将軍親政。
つまりは、現代日本に幕府体制を復活させることが狙いだった。
 長い時間をかけて築き上げてきた議会制民主主義を壊し、一部の武家や公家による専制政治を望んでいたのだ。
 そのためには、外国勢力の力を借りるのもやむなしというのが、斉御司の本心だった。
だから反米反ソの精神で、冷戦下の日本を独立させようとする御剣とは相いれなかったのだ。

「その時まで、我らは道化になりましょう。
ある時は米国に、ある時はソ連に……」
 斉御司は顔を歪めて、不敵の笑みを浮かべた。
壁にかかった振り子時計の方を見ながら、こう続けた。
「あの時計の振り子のように、首を振りましょう」
 斉御司は煙草をもみ消しながら、大伴の方を向く。
大伴は、自分の右側にある軍刀を握って、無言で立ち上がった。
 勢いよく鞘から抜くと、虚空に向かって剣を一閃する。
部屋の中の灯りを求めて入ってきた蛾を、鈍い光が両断した。
「おのれ、木原め。
いずれや、血祭りにあげてやる」

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