第三部 1979年
戦争の陰翳
隠密作戦 その4
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を消し止めようと必死に地面を転がった。
隊長の男は、火だるまになる部下をよそに、アイリスディーナの方に駆け寄る。
せめて彼女だけでも人質にと、考えての行動だった。
その瞬間、閃光が認められた。
アイリスディーナの放った.32ACP弾が、男の持つスコーピオン機関銃に当たる。
彼女はワルサーPPK/Sを握っていた。
それは東独製の違法生産品ではなく、米国のインターアームズ社でライセンス生産されたものだった。
もしものことを考え、篁がミラの誕生日に護身用にとプレゼントしたものを借りていたのだ。
(インターアームズ社とは、1998年まで存在した米国の拳銃メーカーである。
西独製のPPKが500ドルなのに対し、米国製のPPKは265ドルだった。
半値近かったが性能と仕上げは、西独製と遜色はなく、人気商品だった)
額からにじみ出る汗の為に濡れた目出し帽に触れた後、男はスチェッキン拳銃を取り出す。
アイリスディーナの方ににじり寄りながら、安全装置を半自動の位置に操作する。
小娘と思って、侮っていたのが間違いだった。
女とはいえ、相手は、一通りの軍事教練を受けた人物ではないか。
車を盾にするアイリスディーナに向け、9×18ミリPM弾を数度放つ。
アイリスディーナは乱脈に逃げまどいながらも、PPK/Sで応戦した。
男はアイリスディーナの方に気が向いていて、周囲の状況を見落としていた。
既に銃声を聞いた近隣住民により通報されたパトカーが来ていたことに、気が付かなかったのだ。
アイリスディーナは、PPK/Sの引き金を落とすが、弾が出なかった。
敵の襲撃に興奮しており、なおかつ反撃するのに夢中で、弾切れに気が付かなかった。
男は口元をゆがめ、恐怖でおののくアイリスディーナを見やった。
彼女は近くにあった小石を投げて、必死に男を牽制しようとする。
男は腰のベルトに横差しにしたカフカス風の短剣を抜き出した。
後ろで燃え盛る炎の光が反射して、闇夜の中に鈍い煌きが浮かび上がる。
「うへへ。さっきの威勢はどうした、お嬢ちゃん。
後は俺が可愛がってやるぜ」
アイリスディーナは、一閃の光を見た瞬間、血の気がスゥーと引いた。
「へへ、うへへ。貴様のようなドイツ人は危険だ。
やはりソ連がしっかりと教育せねばならんのだよ」
アイリスディーナは、おびえ切っている。
すっかり、元の気弱で優しげな少女に戻ってしまっている。
アイリスディーナに歩み寄る男の眼前を、小太刀が通り抜ける。
反射的に男が振り向く。
男は一瞬にして、振り下ろされる刃の輝きを身に受けた。
60センチの刀身は、男の左肩から胸を引き裂いた。
袈裟懸けに切られた男は、握っていたキンジャールを落とす。
ゆっくりとスローモーション撮影の
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