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第一章

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               駅
 家の最寄りのその駅を見てだった。
 向田愛奈黒目がちの大きな澄んだ目で黒髪をボブにした八歳の彼女は自分の手を引く祖父にこんなことを言われた。
「祖父ちゃんはここから戦争に行ったんだ」
「そうなの」
「ああ、他の行く人達と一緒にな」
 祖父の正は駅を見つつ言った、古い木造の建物や椅子が目立つ駅だ。
「大勢の人に見送られて万歳を言われながらな」
「戦争に行ったの」
「四十年は前にな」
「四十年なのね」
「ああ、もうな」 
 愛奈に駅をじっと見ながら話した。
「それだけ経つな」
「そうなの」
「それで九州に行って陸軍の空港で働いていてな」
 そうしてというのだ。
「戦争が終わったよ」
「そうだったの」
「それでこの駅に帰ってきたんだ」
 戦争が終わってからというのだ。
「そうだったんだ」
「それでお祖父ちゃん今ここにいるの」
「ああ、仕事に戻って結婚してな」
 そうしてというのだ。
「愛奈のお父さん達が生まれてな」
「お父さんがお母さんが結婚して」
「そうしてな」
 そうなってというのだ。
「愛奈が生まれたんだ」
「そうなの」
「それで愛奈はこの駅から色々な場所に行くな」
「地下鉄やバスでも行くけれど」
 それでもとだ、愛奈は祖父に答えた。
「この駅からね」
「そうだな、祖父ちゃんもだよ」
「それでお祖父ちゃんはこの駅から戦争に行ったのね」
「昔な、四十年は前にな」
「そうだったのね」
「そうだ、じゃあ今から難波に行って阪神の試合観ような」
「勝てばいいわね」
「そうだな」
 祖父に手を引かれてこうした話をしてだった。
 愛奈は大阪の天下茶屋の駅から難波に出て難波駅のすぐ傍にある大阪球場に行って南海の試合を観た、これは彼女が子供の頃の話だった。
 やがて南海は身売りして福岡に行き大阪球場もなくなった、そして天下茶屋駅もだった。
「改築されて変わったな」
「そうよね」
 大学生になった愛奈は完全に老人になった祖父に応えた。
「前は木もあったのにね」
「席だってな」
「それが今やコンクリートでね」
「高い場所にあるな」
「そうなったわね」
「もうな」
 祖父は昔を思い出す顔で孫に話した、天下茶屋の商店街の傍にある一軒家の中で一緒にテレビを観ながら話している。
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