第三章
[8]前話
「見事だよ、ただね」
「何でしょうか」
「時間のチェックを腕時計でしたけれど」
彼女の左手を見つつ言った、腕時計のあるそこを。
「どうしてかな」
「腕時計で時間をチェックするのは普通では」
「いや、スマートフォンがあるなら」
それならというのだ。
「もうね」
「そこで時間をチェックすれば宜しいですね」
「どうしてそうしなかったのかな」
「好きだからです」
これがグロウスの返事だった。
「だからです」
「時計がなんだ」
「はい、ですから」
「スマートフォンでなくなんだ」
「時計で、です」
これを使ってというのだ。
「時間をチェックしました」
「そうなんだね」
「そうなのです」
「成程ね、全部わかったよ」
子爵はブロウスに笑顔で応えた。
「何もかもがね」
「何故私が先程間もなくお客人が来られるかと申し上げたか」
「全部ね、時計からそこまで推理するなんて」
それはというと。
「君は女性版ホームズか。いや」
「ホームズではないですか」
「列車と時間にまつわるから」
だからだというのだ。
「鬼貫警部か」
「確か日本の探偵さんですね」
「列車の時刻表のダイヤルから犯人のアリバイを崩すね」
そうすることを得意としているというのだ。
「日本の探偵さんだよ」
「私が列車と時計の時間から申し上げたので」
「そうだよ、イギリスの女性版の」
そうしたというのだ。
「鬼貫警部だよ」
「私はそうですか」
「うん、名探偵は思わぬ場所にいる」
子爵は笑ってこうも言った。
「また何かあれば頼むよ」
「時間のことしかわかりませんが」
「それで充分だよ」
子爵はこの言葉の時も笑っていた、そうしてだった。
以後時間のことではグロウスによく尋ねた、彼女はその都度的確に答えた。子爵はそんな彼女を我が家の名探偵と呼び続けたのだった。
メイドと時計と推理 完
2024・7・14
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