第一章
[2]次話
母の持病
昔は美人だった、主婦の前田佳奈は密かにこのことが自慢であった。外見は今でも大きな優しい感じの二重の垂れ目に色白の肌に形のいい顎とすっきりした頬に高い鼻と大きな赤い唇に黒のロングヘアとかなりのものだ。背は一五五位で胸は大きい。
だが最近はだ、そうは思えなくなっていて夫で一緒にショッピングモールでうどん屋を営んでいる正弘穏やかな顔で黒髪を短くしている痩せて長身の彼に言った。
「美人とかなんて言われても」
「喜べないかい?」
「やっぱりあれよ」
夫にこう言うのだった。
「それって元気じゃないとね」
「言われてもだね」
「思えないわ」
「そうなんだね」
「本当にね」
こう言う日々になっていた、だが。
息子で小学六年生の淳夫父親そっくりの顔の彼も小学四年生の娘の聡美母親そっくりの彼女も母の言葉を聞いて思った。
「美人だよな、お母さん」
「そうよね」
「僕の友達皆言ってるよ」
「私のお友達もよ」
「けれどそう思うなんて」
「喜べないなんてね」
「どうしてかな」
首を傾げさせて言うのだった。
「何かあったのかな」
「元気じゃないとなんて」
「お母さん病気なのかしら」
「そうなのかな」
「死なないよね、お母さん」
「えっ、そうなったら嫌だよ」
子供達の間で話してだった、
二人は母のところに飛んで行って心配する顔で尋ねた。
「お母さん病気?」
「何処か悪いの?」
「死なないよね」
「大丈夫?」
「死なないわよ、癌とかじゃないから」
母は子供達にこう返した。
「元気じゃないけれどね、もう」
「元気じゃないって」
「やっぱり何かあるの」
「どうしたの、一体」
「荒田の何処が悪いの?」
「お母さん神経痛なのよ」
子供達に一言で答えた。
「実はね」
「神経痛?」
「そうなの?」
「そうよ、結構酷くてね」
それでというのだ。
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