第二章
[8]前話
ふとだ、時貞は母が食べるイクラ丼を見て言った。
「烏賊の塩辛にカニカマも一緒だね」
「ああ、おかずのな」
父も言われて気付いた。
「そうだな」
「イクラ少ないね」
「どうしたんだ?」
「実はこの前人間ドックの診察の結果が来たの」
忍は家族に苦笑いで答えた。
「そうしたら乳酸値が高くて」
「乳酸って何?」
「身体にあるものでこれが高いとね」
母は息子の問いにも答えた。
「痛風って病気になるの。女の人はあまりならないけれど」
「なるんだ」
「そうなの、これが凄く怖い病気で」
それでというのだ。
「そよ風が当たっただけで身体が痛いのよ」
「そうなんだ」
「だからね」
「お母さん痛風にならない様になんだ」
「イクラを沢山食べると乳酸が増えるから」
身体の中のそれがというのだ。
「だからね」
「あまり食べないんだ」
「今はね、ビールも飲まない様にするわ」
「ビール好きなのにな」
夫がこちらの話をした。
「それでもか」
「これからはワインや焼酎にするわ」
「そうなんだな、けれど痛風になるのはビールが一番問題だから」
それでというのだった。
「ビールを止めてイクラは食べていいんじゃないか?」
「いいの?」
「滅多に食べないし」
高いからだというのは敢えて言わなかった。
「いいんじゃないか?」
「そうなのね」
「だからもっと食べたらどうだ」
「そうしたらいいの」
「ああ、どうだい?」
「そうね、じゃあビールを完全に止めて」
そうしてとだ、妻は夫に答えた。
「今日はイクラ食べるわ」
「そうしような」
「じゃあ皆で食べよう」
笑顔でだ、息子も言った。
「イクラ、それに塩辛もカニカマもね」
「そうしような、皆で楽しもう」
夫も言った。
「そうしよう」
「それじゃあね」
こう話してそのうえでだった。
一家でイクラを楽しんだ、塩辛もカニカマもだ。そして忍はビールをワインや焼酎に切り替えた。すると乳酸値は減って安心したのだった。
イクラ丼と母 完
2024・11・16
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