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社長の息子の行く店
第一章

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                社長の息子の行く店
 室生晴信の家は県内でも有名な企業を経営している、家の会社で働いている彼も将来は経営に携わることになっている。
 だが彼の行く店は。
「あれっ、また吉野家か?」
「はい、大好きなんですよ」
 上司の長谷川時雄に話した、すらりとした長身で細面で黒髪を清潔にセットしている。きれながのめで涼し気な顔立ちだ。
「吉野家が」
「そうなんだな」
「いいですよね、吉野家」
 店の中で昼の食事時間に鉢合わせた長谷川に話した。
「早い安いで」
「しかも美味い」
「ですから好きなんです」
「他には定食屋にも行くな、君は」
「会社の傍の」
「会社の食堂にも行くし」
「あそこも美味しいですね」 
 にこやかな顔での返事だった。
「とても」
「うん、しかしこう言ったら何だが」
 長谷川は室生に話した、四角い顔と眼鏡に大きな口と黒く短い髪の毛でがっしりした長身の持ち主だ。
「社長の息子さんだから」
「だからですか」
「お金あるだろう」
「いやいや、ないですよ」 
 室生は笑って答えた。
「お給料の分だけです」
「お金があるのかい」
「そうです、実家暮らしですが」
 それでもというのだ。
「お金はそんなものです」
「そうなんだね」
「確かにお家の付き合いでいいお店に連れて行ってもらう時もあります」
 そうしたことはあるというのだ。
「ですが」
「それでもかい」
「うちは贅沢しない家なんで」
「そうなんだ」
「贅沢に興味なくて」
 だからだというのだ。
「それでなんです」
「君も贅沢しないのかい」
「それに吉野家とか定食好きなんで」
 自分の好みのことも話した。
「あと立ち食いの」
「うどんや蕎麦もかい」
「好きで」
 そうであってというのだ。
「よく行きます」
「そうなんだね。性格も検挙で真面目だしね」
「そう躾けられたんで」
 家というのだ。
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