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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第112話 辺塞到着
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「その、ボロディン中佐のご厚意は大変嬉しいのですが……やっぱり……」

 僅かに頬を染めて組んだ両手の親指をクルクルと回転させているので、何かやはりドールトンを誤解させてしまったのは間違いない。なので俺は目を閉じて優しい笑みを浮かべて、はっきりと

「ドールトン中尉は私の好みじゃないから、本当に押し倒されるとか心配しなくてもい……」

 いんだよ……と言い終える前に、左頬を衝撃が襲い、俺は椅子から体勢を崩して床に倒れ込む。いきなりなにが起こったか分からず本能のまま呻き声を上げ、倒れたまま顔を上げると、既に会議室にドールトン中尉の姿はなく、扉は開け放たれている。

 しばらく頬を擦りつつ、この日何度目になるか分からない溜息をついて立ち上がると、開いた扉から余所見をしながらビューフォートが端末を持って入ってきた。

「今、そこで泣きながら走って行くドールトン中尉を見ましたが、なんかありましたかい?」
「あぁ……まぁ、ちょっとね」

 残っていたギシンジ大佐と俺の分の紙コップをテーブルの端に寄せながら俺が顛末を話すと、端末を置いてマシンで珈琲を淹れていたビューフォートは、『バカじゃねぇの、お前ら』と俺の耳にようやく届くくらいの小声で吐き捨てた。

「で?」

 上官侮辱罪を適用するにはあまりにも自分が情けないのが分かっていたので、差し出した珈琲を右手で受け取ってから聞くと、カッコつけんなと言わんばかりの小馬鹿にした視線を向けながらビューフォートは俺に応えた。

「ドックは他部署と違ってマトモですな。航海中に確認できた左舷姿勢制御スラスター一二番の交換も、すぐにやってくれた。模擬テストも異常なし。他の航行前テストも順調に進んでいる」
「あとでドック長に礼を言っておく。他の部署は?」
「補給廠担当官がケチなのはどこもかしこも変わらないが、誘導兵器の在庫がヤバいらしい。隊司令に会ったら『なんで補給船団を連れてこなかったんだ』と抗議してくれとのことだ。いま、言ったぜ」

 そんな抗議は俺ではなく管区司令部か統括補給本部に言ってくれと言いたいが、言った結果が無しの礫というのが実情だろう。

「すると中性子ミサイルも機雷もしばらくは七分隊頼みか」
「後は帰り道に他所の補給基地に寄って補充するかでしょうが、ま、管区の他の補給基地も大概変わらんでしょうな」

 どうしたって補給は制式艦隊の方が優先される。それからより中央に近い警備艦隊、巡視艦隊。星系内に独自の兵器廠を持つ星域ならば余裕はあるだろうが、このシャンダルーア星域にはない。ルンビーニ星域に小規模な工廠があるが、生産品を巡って各補給基地同士で争いが起こっていることは想像に難くない。仮に余裕があっても他補給基地駐留の哨戒隊には、おそらく気安く譲ってはくれない。


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