第112話 辺塞到着
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合うなとか言うつもりはない。この副官任務を志願したというのが、ここで勤務するオブラック中佐が目的だったとしても、特段何とも思わない」
「……」
「ただ第一〇二四哨戒隊隊司令付副官としての任務を、着実に果たしてくれる事だけ、俺は貴官に臨んでいる。その為にはまず貴官の身の安全が、とにかく一番、重要なんだ」
「……」
「だから言うまでもないと思うが、『隊司令の女なのか?』と見知らぬ誰かに問われたら笑って誤魔化せばいい。邪な意思を持つ相手なら、それで十分手控えるはずだ」
「ですが、それでは……それでは、隊司令にもご迷惑がかかるのではありませんか?」
心配半分・迷惑半分と言った表情で、ドールトンは殊勝なことを言う。想像以上に内心が表情に出る副官に俺としては別な意味で心配になってくるが、確かに言う通り、事実ではないにしても『副官を愛人にする隊司令』というのは十分なスキャンダルになりうる。クーデターを鎮圧した救国の英雄ですら、問題にされるのだから、辺境勤務の中佐如きであれば致命傷になりかねない。
この補給基地の治安回復は急務だ。この件についてはギシンジ大佐も当てにはならない。そして今の俺には、手を付ける余裕はない。むしろ中佐を拘束できる権限のある監察官が中央から送られてくれるのならば僥倖だ。ムライみたいな人であれば、デマに惑わされることもなく、補給基地内の大掃除を手伝ってくれるかもしれない。
「大切な部下の安全の為に悪評を引き受けることなど、大して苦じゃないさ。もっとも、あんまり長いことになると困るけどね」
俺がなんとか表情筋を駆使して、優し気な笑顔を浮かべてそう応えると、ドールトンの目は点になり口も半開きになった。それから数秒もせずに意識は回復したみたいだが、今度は視線が左に右に不規則に振れ、表情に落ち着きがなくなっている。
「ドールトン中尉?」
そんな挙動不審が三〇秒も続いたので声をかけると、ドールトンは文字通り伸びていた背筋を震わせながら椅子から立ち上がった。
「あ、えっと……その……ボロディン中佐?」
「なにかな?」
「わた……小官は、その中佐の大切な部下、なんでしょうか?」
「当然だろう」
正直言えばハイネセンで即チェンジしたかったのだが、一度部下になった以上はどんな人間であろうと俺にとっては大切な部下だ。問題があれば更迭もするし教育もするが、今のところドールトンには副官任務として問題もなければ、別段教育する余地も今のところはない。ここまでの航海で航法士官としての才も十分確認できたし、今更ハイネセンから同レベルの新しい副官を呼ぶのは時間の浪費だ。
だが言われたドールトンの表情はおかしい。身長は俺の方がかろうじて高いくらいなのに、立っていながら首を前に垂らし、上目遣いで俺を見ている。
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