第112話 辺塞到着
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いずれにしろ苦しんで死んだ」
そう言うとローレンソン中佐は目を瞑り、笠木に後頭部を預け、深く溜息をつく。
「交代前最後の哨戒任務だった。ハイネセンで編成された三三隻のうち、二五隻が健在だった。それが今はたった七隻だ」
それは死亡フラグとか、思っていても到底言えるわけがない。もし俺達が一ケ月早く着任していれば、失われた一八隻の乗組員は生きて帰れたかもしれない。だが密度はともかく訓練は規定日数通りであり、ここまでの運航にロスはなかった。本当に運が悪いとしか言いようがない。
「第一三〇八哨戒隊、総戦死者・行方不明者数三二五三名。兵員損失率八〇.三パーセント。全滅せず、帰還で来た哨戒隊の中でも、これはワーストに近い。全て私の責任だ」
「……」
「せっかくドックまで来てもらったのに悪いが、今日は勘弁してくれ。明後日には資料を揃えて、君の艦にお邪魔させてもらう。君の艦(ふね)は?」
「戦艦ディスターバンス。Aバース八八に係留しております」
「了解した。明後日には必ず伺おう。それと着いて早々こんな話を、君に引き継ぐのは実に悲しい事なのだが……」
ゆっくりと立ち上がり、肘掛けに掛けていた軍用ベレーを手に取ってかぶり直したローレンソン中佐は、俺ではなくかなり離れたところに立っているドールトンに視線を向けて言った。
「この補給基地にいる間、婦人兵は必ず三人以上の団体で行動するか、男性士官と一緒に行動することを強く薦める。もちろん補給基地の要員全てではないが、どうやら軍人の皮を被った小鬼共が、この基地には潜伏しているようなのでね」
確かに新任の隊司令の最初の引継ぎ内容がそれでは悲しいよなと、引き攣った顔で敬礼するドールトンを横目に見ながら、思うのだった。
◆
そして到着早々にそんな警報を出したおかげかわからないが、着任一週間で第一〇二四哨戒隊の婦人兵に犠牲者は出ていない。だが女性に限らず哨戒隊の将兵の誰もが、第五四補給基地に違和感を覚えていた。
まずもって雰囲気がおかしい。前線司令部にありがちな暴力性の発露がないのは幸いだが、逆にスラム街のようにジメジメとしてカビが生えてきそうな陰湿な空気がある。どの共用酒保もそれぞれの艦や所属先ごとにまとまっていて、マフィアのように互いを敬遠している。
特に哨戒隊乗組員と補給基地要員の間の精神的な溝は深い。その溝が下級兵士の間であるならば、まだわからないでもない。だが指揮・人事権を有し、対立を掣肘すべき士官の間ですらそれは顕著に表れている。
「この補給基地の連中は、腰抜けと役立たずの吹き溜まりさ」
ドールトンの出した珈琲をがぶ飲みし、戦艦ディスターバンスの司令会議室に我が物顔で座る、駐留哨戒隊先任指揮官であるムワイ=ギシンジ大佐は、そう唾を飛ば
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