第112話 辺塞到着
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で遊び歩いて怪我して帰ってきた他所の人間の入院費用をなんでウチが出さなきゃならない」という声と、「命も張らず、戦うわけでもなく、疲労困憊で戻ってきたら要らぬ小言をネチネチ言う恥知らず共」という声の、宿命の対立と言っていい。
だがそんなどこにでもある対立も、お互いに戦えるだけの気力があればこそだ。俺が僅かに見た限り、この補給基地にはその気力すら感じられない。
「駐留哨戒隊の先任指揮官であるムワイ=ギシンジ大佐は、現在任務に就いている。五日後には帰投予定とのことだ。哨戒隊の任務に関しては、貴官の前任のローレンソン中佐に聞くといい。今ならたぶん第三整備ドックにいるはずだ」
准将の握手が解かれた後、オブラックはそう言って俺に遠回しの退席を促してくる。まるで痴呆が始まったホーム入居者と口の悪い介護士だなと、准将に失礼なことを思いつつ俺は二人に敬礼して退席する。ドールトンも同じように二人に敬礼するが、後ろ髪を引かれるような雰囲気が体から漂っているのは一目瞭然だった。
そして端末に従ってオブラックに言われた通り第三整備ドックに赴くと、展望室に設置された薄汚れたラウンドチェアに仙骨座りになって、満身創痍の戦艦を眺めている初老の中佐がいた。声をかければ、首だけ廻し、小さく敬礼してくる。
「交代の隊司令どのか。ようこそ地獄へ」
席を立つわけでもなく、抑揚のない語り口。まるで悪魔か何かに精気を吸い取られてしまったような無気力さが中佐を包んでいる。顔の肌は薄く、瞼は重く、口に締まりがない。だが俺の顔をしばらく見た後で、小さく細い眉を上げてた。
「若いな。幾つだ?」
「二七になります。ローレンソン中佐は?」
「五〇だ。先月でな」
溜息交じりにそう応える中佐は、再び戦艦へと視線を戻す。俺も何も言わず、座っている中佐の右脇に立って目の前の戦艦を眺めた。右舷艦首から艦中央にかけて長い傷があり、焼け爛れた衝撃吸収材がそこからはみ出し、一部内壁が露出している。艦首主砲塔の右舷上に複数の大きなへこみがあり、そこから伸びる引っ掻き傷のような跡が何本も伸びて、舷側レーザー砲数か所を巻き添えにしている。
「よく生きて帰ってこれた、と言いたげだな」
まさにそれ以外の感想が出てこない惨状だ。長い傷は間違いなく艦砲の直撃。あともう少し艦の中心軸に寄っていたら、内壁を貫通し艦の与圧内部にエネルギー流が侵入し、核融合炉が誘爆、間違いなく轟沈だろう。
「敵駆逐艦の至近砲撃だ。右舷スラスター全開で躱したつもりだったが一発貰った。お返しで奴らの船体半分を吹き飛ばしてやったんだが、なぜか爆発しないでそのまま慣性則で右舷衝突をかましてくれた」
「右舷乗組員は……」
「艦首右舷側砲要員はほぼ死んだ。吸い出されたか、潰されたか、焼かれたか。
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