第112話 辺塞到着
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ザーン商人もまた投資に対しては及び腰だ。
いずれにしてもここは最前線。補給基地より先にある同盟の設備は無人の偵察衛星のみ。訪れる客は同族か、同族異種。ここから出て行くには二年の期日を生き残るか、運よく死なない程度に戦傷するか、脱走するか、戦死するか。確かにここはアル=シェブル艦長の言うように戦う者にとっては地獄に極めて近い場所だが、そうでない者にとってはそうとは限らない……
最初から、悪い予感がなかったわけではない。任務拝命を喜んでいたこと。なのに部隊編制以来、任務に怠りないものの、俺とはあまりにビジネスでドライな関係であること。ビューフォート副長をはじめとした戦艦ディスターバンスの乗組員とも交流が薄い事、など。
艦の仕切りをビューフォート副長に任せ、接続されたタラップを通って第五四補給基地のターミナルに脚を下ろした時のこと。出迎えに来た基地参事官に着任の挨拶と、交代で帰還する前任の哨戒隊司令の予定を聞く時だった。俺の右後ろにいたドールトンから嘆息が上がり、それに対して基地参事官は俺への敬礼より先に笑顔を浮かべて小さく手を上げる。なるほどそういうことかと、俺は納得せざるを得なかった。
そいつは六年前から階級は変わらず、容姿もさほど変わっていない。いかにも女受けするようないけ好かない笑みを浮かべている。顔と口先だけは一人前で、俺がこれまで見知った後方参謀の中では、おそらく最も器量と能力に乏しい奴……
「久しぶりだな。ボロディン“中尉”」
「どうも、ご無沙汰しております。オブラック中佐“殿”」
一応相手が先任だから先に敬礼はしたが、誰もいないところであれば間違いなくブッ飛ばしている物言いをするミシェル=オブラックの顔を見て、俺はこれから二年間にわたる赴任期間に、些か面倒な問題がさらに積み重なったと思わざるを得なかった。
それでも任務なのかそれともドールトンの手前か、オブラックは俺とドールトンを補給基地司令のところまで案内はしてくれる。ただランドカーで五分、そこからエレベーターを二度乗り継いでいる間すらも、二人は俺の目の前で思い出話に花を咲かせている。着任早々に隊司令が暴行で謹慎というのは避けたかったので、何も言わずずっと二人の背中をシラケた目で眺めていた。が、やはり文字通り一歩下がった視線というのは、物事を俯瞰的に観察するのに適しているらしい。
ランドカーは明らかに点検していないと思わせるくらいに異常な走行音を立てている。共用スペースの清掃は複数のゴミ箱が溢れるくらい行き届いていない。司令スペースまでにすれ違った将兵の数は少なかったが、俺達への敬礼もおざなりで、服装も薄汚れている者が多い。それが容儀よりも任務を優先するような粗野な連中だからかと言えばそうではなく、いずれも無反応というか諦観に近い表情
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