第111話 第一〇二四哨戒隊 その2
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おいては移動と索敵に念を入れるが、戦闘はさほど重要視しない。発見できればとにかく何が何でも生き延びることを優先する。
だからと言って無分別な任務放棄・敵前逃亡が許されているわけでもない。それを許せば戦時の統制が取れなくなり、平時でも脱走が起きかねない。それが想像できるだけに、司令の臆病風のせいで功績を上げるチャンスを奪うつもりかと、現に複数の艦長達、特に若い士官学校卒の艦長達の顔には不満が浮かんでいる。
「したがってやむを得ず戦う時は、上級司令部から戦域維持の指示がない限り、極力短期決戦を目指す。具体的に言えば、二四時間以内で勝負がつかないような戦いは回避する方向で指揮する。故に各艦には激しく厳しい運用を求めることになるし、訓練は過酷なものになるだろう。それは第七分隊であろうと変わらない。『死んだ方がマシだ』という程度は覚悟してくれ」
俺の言葉に会議室の空気がさらに重くなったのが明らかにわかる。話の分かる司令だと思っていたら当てが外れた、という思いか。失望と諦観が雲となって天井に現れてきた中で、中列辺りに座っていた一人の艦長が手を上げた。毬栗頭にやや大きい碧い眼。席から立てば意外と身長は低く、胴周りが太い。
「五分隊二番スノウウィンド一〇二号のテンプルトンです。司令に質問、よろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「死んだ方がマシだと思わせるような訓練をするということですが、具体的にその結果としてどのような戦術の達成を目標とされているのですか?」
勝利に固執するあまり、麾下の艦艇に出来もしないようなこと求めるような指揮官なら、サボタージュも厭わない…… これまで艦長経験のない若造に隊司令など務まるのか。そういう根源的な不安を呼び覚ますような質問に、俺は笑顔で答える。
「各分隊が第一戦速で移動しながら一点集中砲撃し、分隊有効射程八〇パーセントの距離にいる敵艦を、三斉射内で確実に撃沈できるようにするのが、最低限の目標だ」
ううん、という呻きが各所から洩れる。編成されたばかりの分隊にとってみれば高すぎる目標で、達成は困難ではある。だが全く不可能というレベルでもない。
「休暇時間と俺が『一切訓練なし』と決めた時間以外は、全て訓練が行われると考えて行動してほしい。実際マーロヴィアに駐留していた巡航艦分隊は、僅か二週間のうちにこの目標を達成している」
「……」
「この哨戒隊より旧式艦の、ド辺境の駐留部隊ですら達成可能だったのだ。まさかハイネセンで手厚い整備を受けている君達にできないとは言わせない」
「……どのような訓練プランをお考えか。もしよければお教えいただきたい」
俺の挑発的な物言いにテンプルトン艦長が太い眉を寄せながら問う。そこまで大口叩くなら当然準備しているんだろうなという彼らの懸念は当然だが、そう言わ
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