第111話 第一〇二四哨戒隊 その2
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いから、良いメーカーがあったら教えてくれ。紹介料はなしで頼むよ」
「天国に紹介料は不要ですからご安心を」
左胸の艦長章に手を当てて軽くお辞儀しながら、上目遣いで俺を見るアル=シェブルの顔には笑みが浮かんでいる。この艦長は『アタリ』だ。俺は眉を歪ませて、皮肉っぽく続けた。
「まさかとは思うけどアル=シェブル艦長。戦艦の艦長が死んだら天国に行けると思っていらっしゃる?」
「ボロディン中佐がこれから我々を連れて行く場所は地獄でしょうから、それ以外のどこもおそらくは天国と呼ばれることでしょう」
新編成の部隊において重要なのは、死を軽視するのではなくまた過剰に恐れることでもなく、ただ胸を張って立ち向かうぞという言葉を、部下の口から無理なく言わせるような雰囲気を作ること……少数の戦闘集団の背骨となる戦艦の艦長が言えば、巡航艦や駆逐艦の艦長達もその気になってくる。これもまたバーソンズ老がマーロヴィアの営倉で常々言っていたことだ。
「七分隊一番、駆逐艦母艦(AD)アルテラ一一号艦長のユミ=シツカワです。特に好きな酒はありません」
だが巡航艦や駆逐艦という戦闘艦の艦長達の威勢のいい自己紹介の後。支援艦分隊の先頭となった黒髪で小柄の女性艦長は、俺に対して敵意に近い視線を向けて言う。
「支援艦乗組員は戦って死ぬことになんら価値を見出してはおりません。何しろ自衛以外の……自衛と言えるほどの武装すらないのですから、戦いようがないので」
先程までの会議室の高揚した雰囲気が一気に冷却される。空気が読めない奴め、と言った悪意すら他の艦長達から湧き上がっている。だが彼女のいうことも当然の理だし、後に続く補給艦や給兵艦・工作艦の艦長達も、先任の彼女と大なり小なり同じような雰囲気を纏っている。
常時護衛艦艇を貼り付けておくことができる独立機動部隊や高速機動集団とは違い、数の少ない哨戒隊ではほぼ全ての戦闘艦艇が戦闘行動に従事することになる。つまり支援艦は見捨てられたり、置き去りにされたり、分隊退避航行中の奇襲等を受ける確率は高くなる。故に支援艦の損害比率は、戦闘艦のそれより高い。
「シツカワ艦長の自己紹介はちょうどよかった。俺から幾つか言わせてくれ」
俺が口を挟むと、艦長達全員の視線が俺に向けられる。この若造指揮官は、叛逆とも取れる意見に対して、どう答えるのか。
「辺境星域管区の戦況にもよるが、基本的に俺の戦術方針は『不利になれば逃げることに躊躇はしない』だ」
哨戒隊の第一目的は帝国艦隊の動向を現地で把握すること。機動哨戒隊は『カナリア』であることを軍上層部は十分理解しているから、会敵した敵全てに立ち向かえなどという非人道的な命令を下すことはなく、前進・後退の裁量はある程度隊司令に委ねられている。
その為に俺は任務に
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